【シンガポールのキャッシュレス事情】現状の課題と今後の展望を解説

もともとクレジットカード等のカード決済も普及していたシンガポールでは、SGQRを始めとする新たな決済の形も主流になってきています。

今回は、シンガポールのキャッシュレス事情について一つ一つ詳しくご紹介します。

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シンガポールのキャッシュレス事情

キャッシュレスが普及した理由と背景

1985年、政府は、シンガポール人が取引の支払いをキャッシュレスにすることを奨励し、現金取引を最小限に抑えるための全国キャンペーンを開始。政府は最大2450万シンガポールドルの人件費を節約できると予測した。

1985年3月から5月にかけて実施された3か月のキャンペーンには、3つの目標があった。①シンガポール人が銀行口座への直接クレジットを介して給与を受け取ることを奨励するため②General Interbank Recurring Order(GIRO)を通じて電子的に請求書を支払うことを奨励するため③POSでの電子送金(EFTPOS)を使用した支払いを促進するため。

同年、NETSは電子決済サービスプロバイダーとして設立されEFTPOSの全国的な実装を主導する任務を負った。 NETSは、DBS銀行、OCBC、OUB、UOB、POSBの5つの銀行のコンソーシアムとして設立された。2017年8月9日の独立記念大会でのリー・シェンロン首相のスピーチだった。首相は、キャッシュレス化が浸透している中国を引き合いに出し、シンガポールが遅れていることを指摘。国内におけるデジタル決済システムの統合の必要性を訴えた。

2007年以降、キャッシュレスは急激に普及し、2016年になるとキャッシュレス普及率は58.8%までに増えた。 2017年8月9日の独立記念大会でのリー・シェンロン首相のスピーチで、キャッシュレス化が浸透している中国を引き合いに出し、シンガポールが遅れていることを指摘。国内におけるデジタル決済システムの統合の必要性を訴えた。それ以来キャッシュレスの普及はさらに加速した。

キャッシュレスでの決済額の推移や主流の支払い方法

CPMI(2016,2017)によると、シンガポールにおける2015年度のキャッシュレス決済比率は56.0%、クレジットカードは当時32.2%だったがその後急速に増えている。(次ページ図を参照)現在の主流はクレジットカード、デビッドカードに加えてコロナ禍以降非接触型決済が主流になりつつある。

BISの2017年のレポートによれば、シンガポールは、最も“Cashless payment-intensive”な 国の1つと評されている。MASのボードメンバーであるオン・イエクン教育大臣の講演 (2018年6月)によれば、今や、電子決済の利用経験は、シンガポールの消費者10人のうち 8人強、商店では60%近くに達しているとのことである。

また、電子決済の利用増に伴い現金・小切手の利用も減少している。ATMを利用した現金引出し額は毎年3億SGDずつ減少しており、2015年のATMでの現金引出し額は電子決済による取引額の約60%であったが、 2017年末時点では40%にまで減少している。

政府は2020年までにこれを更に20%にまで引き下げることを目指していた。小切手の取扱いについては、2015年の37%から2017年には 28%にまで減少しており、政府は2025年にはこれをゼロにするとの目標を掲げている。

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シンガポールのキャッシュレス決済:カード決済

クレジットカード

Finderの「 Credit card statistics Singapore」の記事によると、2020年度のシンガポール人クレジットカード普及率は73%であり、10%が6枚以上のクレジットカードを持っている。

四半期あたりの総支出は、2019年の3,289ドルから2020年の第2四半期には1,902ドルに減少した。現在eコマーストランザクションの68%はカードを介して行われている、

クレジットカードはVISA、MasterCard、JCB、アメリカン・エキスプレス、Diners Clubなどすべての主要な国際ブランドがシンガポールの至る場所で使用できる。とりわけ加盟店の多い国際ブランドは、VISAとMasterCard。

シンガポールには、加盟店が追加料金を介して加盟店のクレジットカード手数料を顧客に渡すことを禁止する法律がない。それを受け、2021年11月1日から、AmazonはシンガポールのサイトAmazon.sgでVisaクレジットカードを使用して行われた購入に0.5% の追加料金を課した。

デビットカード

シンガポールでは2018年の時点ですでにデビットカード普及率が90%を超えている。これは15歳以上の人口に占める銀行口座保有者割合が98%に達しており、銀行が発行するATMカードには、通常、VISAやMasterCardのデビット機能がデフォルトとして付与されているからである。

デビットカードの手数料は店舗側にも負担がなく基本無料。例えばチャンギ国際空港では支払いにクレジットカードは手数料がかかるがデビットカードでは無料であるとしている。

クレジットカードと同様、コンビニやホテルのデポジットなど様々な場所で使える。これまではホーカーズのような屋台では使えなかったが、近年屋台でも使える場所が増えてきている。

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シンガポールのキャッシュレス決済:QRコード決済

Nets

Netsは1985年にいくつかの地方銀行によって設立された電子決済システム。オンラインのデビット決済サービスであるPOSネットワーク(EFTPOS)で全国規模の電子送金を提供することで事業を開始。電子決済アプリNETSPayが使える。手数料は無料。

1986年には、NETS 15 EFTPOS(NETS Electronic Funds Transfer at Point-of-Sale)が導入され、消費者は自身のATMカードを用いて、店舗購入に対する支払いをPOSにて行うことが可能となった。

90年代から2000年代初頭にかけて、NETS CashCardによる高速道路や駐車場における料金支払い、EZ-Link Cardにより、公共交通におけるいわゆるタッチ&ペイでの料金支払いなど、「公共交通機関におけるリンケージ」が可能になった。

DBS Pay lah

DBS銀行アプリでの手数料は無料。乗り物、チケット、食事、そして給料の受け取りなど様々なシーンでの使い方がある。アプリでは決済だけでなく請求書の支払いやギフトの送付もできる。

このアプリは NETS QR、FavePay QR、PayNow QR、SGQRの加盟店で使える。

DBS銀行は1968年政府によって設立された銀行で、OCBC銀行、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行と並んで、いわゆるシンガポールの3つのメガバンクの1つとなっている。

GrabPay

Grabは、シンガポールを本拠とする配車サービス事業者で、東南アジアを中心に利用者がおり、配車アプリの利用者は1億人を超えている。

FinTech企業としての側面も有しており、配車アプリ利用者向けのモバイル・ウォレット 「GrabPay」をはじめ、FinTech分野にも幅広く展開している。

Grabアプリでは、配車サービスに加え、2018年から開始したフード・デリバリー・サービスも提供されるが、これらのサービスはいずれもGrabPayの機能を用いてキャッシュレスで利用できるほか、QRコードによる各種支払い、QRコードを用いたP2Pの送金機能も実装されている。利用手数料は無料となっている。

SGQR

SGQRとはシンガポール国内共通のQRコード。政府が電子決済環境を整備していく中で、 PayNow導入により、他社銀行間の送金・支払いや個人における携帯番号・身分証明番号の代わりに、 “UEN(Unique Entity Number)”と呼ばれる企業登録番号を通じて決済を行うことが可能になった。

しかし各消費者が各企業の企業番号(UEN)を認識していないので、これを入力して店舗での購入代金の支払いを行うようなことができない。そこで発展したのが、UENやその他支払いの詳細を読み取ることのできるQRコードである。消費者は、自らの携帯電話などでQRコードをスキャンして決済を行うことができる。

「SGQR」は、携帯番号や身分証明番号、企業登録番号を用いた上述の送金システム 「PayNow」の他、地場電子決済機関の「NETSペイ」、地場配車アプリ大手Grabの「GrabPay」、各銀行が提供する決済アプリをはじめ、国内全27のモバイル決済システムに適用され、国内約1万9,000以上の決済用QRコードが「SGQR」に置き換えられることとなった。

「SGQR」 の利用は、使用したいモバイル決済アプリをスマートフォン上で開き、店頭のSGQRをスキャンして画面上で金額を打ち込み、支払いボタンを押すだけ。利用者は単一のQRコードで決済でき、店舗側は代金の受取りを端末上で容易に確認できるほか、決済事業者毎に複数のQRコードや決済端末を用意する必要がなくなるため、コスト削減にも寄与している。

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シンガポールのキャッシュレスの現状課題

キャッシュレスを使えない方への配慮

モバイルの普及率が150%で、クレジットカードの使用率が高いにもかかわらず、Paypalによる最近の調査では、シンガポール人の大多数が依然として現金での支払いを好むことが示された。

キャッシュレス技術が社会に与える恩恵は計り知れないものであるが、一方で現金から電子決済への切り替えは、誰にとってもスムーズなプロセスではない。

高齢者、退職者、低所得者など、電子決済の方法を利用できないグループが必ず存在するという事実を認識しなければならない。

キャッシュレス決済システムに関する説明は、不利な点に偏っている。一部のグループは、銀行口座にアクセスできない可能性のある人々(不釣り合いに貧しい人々、最も脆弱な人々、または高齢者)の排除を懸念している。

プライバシー観点での課題

キャッシュレス化の見逃してはならないもう一つの課題はプライバシーの喪失と、中小企業が電子決済端末を設置する際に負担しなければならない費用である。

例えば現在のシンガポールの個人データ保護法では、組織が同意なしに個人のデータを使用することを防ぐための措置を講じるだけではプライバシーの侵害防止には不十分である。

例えばプライバシー法が厳格なスウェーデンなどのキャッシュレス先進国より、キャッシュレス決済の推進方法などを学んで、議論をしていく必要がある。とりわけシンガポールのような個人ではなく社会としてキャッシュレス決済を採用する場合はこの点を考えておくのは重要である。

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シンガポールのキャッシュレスの今後の展望

政府の今後の方針

中央銀行のデジタル通貨、つまりCBDCへの関心が世界的に急上昇しているなかで、シンガポールもこれに対応していく方向性がある。デジタルシンガポールドルは、成長するオンライン取引の世界で中央銀行のお金を使用することの利点を利用できるようにする。

デジタルシンガポールドルは、効率的で包括的な支払いエコシステムを促進する可能性がある。これにより、中小企業が新しい支払いや関連するデジタルサービスを簡単に構築できるようになる可能性がある。

デジタルシンガポールドルはさらに、シンガポールの決済環境における私的に発行されたステーブルコインまたは外国のCBDCの侵入を軽減する可能性がある。これらのグローバルデジタル通貨がシンガポールの市場に参入し、将来広く利用できるようになると、国内の小売取引でのシンガポールドルの使用に取って代わる可能性がある。

今後のキャッシュレスの動向

シンガポール金融管理局(MAS)幹部のオン・イェ・クン氏は2021年2月26日、予算審議の答弁の中で「シンガポールは現金が全く使われない『キャッシュレス社会』は目指しているわけではない」と発言したことが注目されている。

同氏は「電子決済は効率的で便利で環境保護の観点からも良く、促進していく方針だ。しかし現金はこれからも私たちの決裁にとって身近なものであり続ける(一部略)電子決済にあまりなじみがなく、使うのが難しいという人は今でもいる。我々はそのような人たちを置き去りにはしない」と明言した。

この言葉に違わずシンガポール国内で現金引き出しができる場所の数は微増しており、5年前には国内で3700カ所だった引き出し可能なポイントは今では4100カ所となっている。このことはシンガポールは今後もキャッシュレス利用者が増えていくとはいえ、オン氏の明言通り現金の使用者を削除するわけではないと言えるだろう。

まとめ

シンガポール政府としては今後もキャッシュレスは推進していくものの、現金の利用をゼロにすることを目指すわけではないとのことです。そんな状況の中、今後どのようにキャッシュレスが普及していくか目が離せません。

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