【インドネシアのオムニバス法】経済や労働者への影響を解説

2020 年 11 月 2 日に、インドネシアのオムニバス法(雇用創出法)が制定・施行されました。オムニバス法では、インドネシア国内外からの投資誘致などを促すことで雇用促進を図っています。

今回はそんなオムニバス法について、労働者側の意見などを踏まえて詳しく解説します。

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インドネシアでビジネスをするなら知っておきたい10のこと

インドネシアのオムニバス法とは?

オムニバス法の概要

雇用創出に関する2020年第11号法律は通称「オムニバス法」と呼ばれている。目覚ましい経済的躍進を続けているインドネシアでは、2045年に経済規模で世界5番目の国家となることを目指しており、具体的に1人あたり1か月あたりのGDPを2,700万ルピアにすることを目標としている。その実現のため、まず、国民に十分な雇用機会を提供することを目的に環境整備のための法律改正が行なわれた。

法律改正の目論見としては、まず、より多くの事業がインドネシアで立ち上げられるように、ビジネスのしやすさで従来世界73番目であったものを20番引き上げて52番目にすることとそれと合わせて年間300万人の新たな雇用を創出することである。

今回インドネシア国がオムニバス法の手法を取ったのは、マルチセクターを規制する雇用創出法1つだけで、約80の法律と1,200を超える章を一度に改訂できるからである。もし、一つ一つの法律を改正するという従来の方法を取れば、おそらくすべての法律改正が完了するまで50年以上かかるだろうと言われている。例えば、許認可の簡素化とスピードアップを図るための改定に52の法律の700におよぶ章が今回改定された。場所の許可だけでも4つの法律の51の章が改正された。

主な法改正ポイント

今回、雇用創出法では11のクラスターに焦点が当てられている。まず1番目は「許可の簡素化:商標登録、各種許認可、特許、イミグレーション、会社設立などのプロセスを簡素化することにより迅速化を図っている」、2番目は「投資条件の整備:税制改革による国内投資環境の魅力を高めている(配当所得税の廃止など)」、3番目は「雇用:インドネシアへの投資を支援する中で労働者の役割を保護・強化している」。

4番目は「用地取得:ランドバンクの設立により用地取得の迅速化を図っている」、5番目は「ビジネスのしやすさ:中小企業を中心にハラル事業開発をサポート」、6番目は「研究とイノベーションのサポート:国有企業が地域での研究とイノベーションを支援する」、7番目は「政府行政:中央政府、地方政府の管理の標準化を図っている」、8番目は「制裁の賦課:刑事裁判と行政裁判の間に明確な境界を定めている」。

9番目は「中小企業の利便性・権限移譲と保護:すべての事業活動へのNIB(共同識別番号)の適用による簡素化を始め9つの優遇策を盛り込んでいる」、10番目は「政府の投資とプロジェクト:投資運用庁を新設し実施」、11番目は「経済特区:地方自治地のサポートによる経済特区(KEK)の強化と活性化」である。

オムニバス法への賛否

2020年10月5日のKompasの記事によると、インドネシア労働組合連盟(KSPI)や複数の労働組合が雇用創出法に問題があると考えていると伝えた。

まず、従来の産業別最低賃金(UMSK)が廃止されたことにより、平均的により低い金額に抑えられる危険性があること。次に、残業は1日4時間、週18時間までとなっており、従来の最大1日3時間、週14時間より長くなっていること。もう一つ大きな問題は、労働契約の満了時期が経営者側の手中にあり、労働者をいつでも解雇できると経営者に受け取られていること。さらに、休暇についても1週間6営業日で休みが1日という規定だけになっていること。外国人労働者(TKA)の採用許可が容易になり、インドネシア人の雇用に影響がでそうなことなどである。

一方、政府はメリットを挙げた。NSPK(ノルマ、スタンダード、プロシージャー、評価)の実施と電子システムの活用で政府サービスがより効率的、容易、確実になること。OSSを通じたライセンス供与プロセスの利便性と確実性で中小企業をサポートできること。さらに、知的財産権(HAKI)の登録や会社設立がしやすくなったこと。また、協同組合は最低9人の組合員を設定することで簡単に設立できるようになったことや中小企業にとってハラル認証が取りやすくなったことなどである。

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インドネシアのオムニバス法の成立後の変化

オムニバス法の最低賃金への影響

雇用促進法が国会で成立してから、インドネシア労働組合連盟(KSPI)は「雇用創出に関する2020年法律第11号の廃止」と、「2021年の地区/市のセクター最低賃金(UMSK)の引き上げ」を要求して、全国各地でデモを繰り広げた。

雇用創出法で廃止された地区/市のセクター別最低賃金(UMSK)は、他のほとんどの産業よりも労働賃金を支払う能力があると考えられている特定の種類の産業に適用されているため、労働組合としては最低賃金の高位平準化を図るために、賃金支払い能力の高い産業セクターの最低賃金引き上げが重要な戦略であった。

そのため、労働組合は今回の雇用創出法での最低賃金ルールの改定は決して受け入れることのできない内容として強く反発している。

オムニバス法の日本企業への影響

インドネシアの最低賃金は政府・経営者協会と労働組合の3者協議の結果を受けて州知事によって決定される。2003年労働法では州の最低賃金(UMP)、地区/市の最低賃金(UMK)と地区/市のセクター別最低賃金(UMSK)の3つが知事によって決定されると規定されていたが、雇用促進法では、UMSKが削除された。

ちなみに、日系企業の多い西ジャワ州ブカシ県の2020年最低賃金は、UMKが4.498.961ルピア、UMSKの最高額が2輪・4輪車組立業界の5,252,192ルピアで最低額が建築材料業界の4,504,772ルピアであった。

日系企業にとって、従来はUMSKをベースに賃金テーブルを組合と協議するだけだったが、UMSKがなくなったことで、組合との賃上げ交渉がストライキの発生を招くなど難しくなっている。

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インドネシアのオムニバス法の成立までの過程

インドネシア政府の意図

これまで様々な外資誘致策(許認可の簡素化時短化、税制上のインセンティブなど)を実施しインドネシア経済を拡大してきたインドネシア政府は、今後も経済発展を続けるためには、さらなる外資導入が必要だと考えている。

もちろん政府自身が管理している様々な許認可をスリム化迅速化することも課題であるが、海外の資本家から見て最も大きなインドネシアの課題は、周辺国と比較しても手厚すぎる労働者保護を行っている2003年労働法の存在である。

今回、インドネシア政府は、今までタブーであった外注や請負の活用を企業に開放した。2003年労働法では、外注や請負は「補足的な業務」あるいは「生産工程に直接関係のない業務」に限られていたが、この記述が削除された。

これにより、恒久的な仕事に関して契約社員が使えないところは変わっていないが、外注や請負が使えることで、経営のフレキシビリティーが確保でき外資にとって魅力的になった。「労働法」だけを改正するという従来手法を取ると目論見通りに運ぶのが難しいため、11にもおよぶクラスターの一つとして雇用条件の改正を含んだオムニバス法を国会に提出しスピーディーに成立させたということではないかと思われる。

労働組合によるデモと労働者の主張

1998年に専制政治を行っていたスハルト政権が倒れ、民主化が急速に進んだインドネシアのメガワティ政権下で労働者保護色が極めて強い2003年労働法が制定された。2003年労働法が制定されて以降、インドネシアでは労働法に基づく労働争議が絶えない。

また、インドネシアの労働組合は既得権維持に極めて強い意識があり、雇用促進法が国会で成立した直後から「雇用創出に関する2020年法律第11号の廃止」を求めたデモを全国で繰り広げてきた。労働組合は政府が掲げる「2045年に経済規模で世界5番目の国家となる」という豊かな国造りについては全く評価せず、雇用促進法で2003年労働法が改正された内容について全面的に反対している。

最も強い反発を示しているのが、外注・請負の制限が撤廃されたこと。正社員化を限りなく行うことと解雇を極めて難しくしている2003年労働法を堅持することで労働者の生活を安定させることが組合活動の基本であるため、雇用創出オムニバス法の司法審査裁判と歩調を合わせえた行動をとっている。

そのほか、最低賃金、労働時間、休暇、外国人雇用など、政府が経営者側に有利に設定した内容についてことごとく反対している。

違憲判決が出るまでの流れ

2021年11月25日、インドネシア憲法裁判所(HK)は「雇用創出に関する2020年法律第11号(UU Cipta Kerja)」の立法手続きに瑕疵があることから、雇用創出法は今後2年以内に必要な改正が行われなければ違憲であるという「条件付き違憲判決」が下され、立法過程の「公開の原則」は憲法秩序を具現化するものであり、立法手続きには最大限市民参加を含む必要があるというコメントが添えられた。

そして、憲法裁判所は政府に対しオムニバス法に関連する新たな規則の発行を停止するよう命令した。

また、仮に、2年後の2023年11月25日までに立法手続きの瑕疵を修正する法改正ができない場合でも、それまでに行われたオムニバス法および政府の施行規則に基づいて行われたことは無効にならないとしている。この決定は9名いる判事のうち5名が賛成して決定された。

インドネシア労働組合連盟(KSPI)が提訴していた「労働に関する2003年第13号法律、国家社会保障システムに関する2004年第40号法律と社会保障局に関する2011年第24号法律に対する雇用創出法の改定の司法審査」を含む審議中の11の告訴は今回の判決により排斥されることになった。

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インドネシアのオムニバス法の今後の展望

オムニバス法に対するインドネシア政府の姿勢

憲法裁判所から「雇用促進法の条件付き違憲判決」が出た後で、記者会見したジョコウィ大統領は、国内外の事業関係者や投資家に対してこれまで行ってきたインドネシアへの投資だけでなく、現在行っている投資や今後行う投資についても「安全で安心なもの」であり続けるということを改めて強調した。

また、インドネシア政府としてインドネシアへの投資の安全性と確実性を確保するという旨を述べている。

これまでの外資誘致政策や今回の雇用促進法の成立までの政府の努力と決意を考えると今回の判決によって外資誘致に対する政府の姿勢が変わるとは考えにくいので、政府は前向きに雇用促進法の違憲問題の解決に取り組んでいくのではないかと考えられる。

労働組合への影響

2016年からインドネシア政府は「1000デジタルスタートアップ運動」を展開している。さらに国家のデジタル化とデジタルスタートアップを増やしていくため、全国デジタルリテラシー運動(GNLD)に取り組んでいる。

GNLDは、全国34の州と514の地区/都市のコミュニティで展開されており、デジタルスキル、デジタル倫理、デジタルセキュリティとデジタル文化の4つのトレーニングが行なわれている。

情報通信大臣によると、2021年のGNLD参加者は1,230万人、2022年の目標は1,250万人で、2024年末までに5,000万人を目標としているということ。単純作業しかできない労働者が大半を占める現状から労働者の質の向上を進めることで労働組合の体質転換にも貢献することが期待される。

まとめ

労働者側からは不満もでているオムニバス法ですが、インドネシア政府は外資誘致に積極的な姿勢であると考えられます。今後はオムニバス法の違憲問題の解決に向けた取り組みに注目が集まるのではないでしょうか。

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