タイの電力・ガス業界は、EGAT(発電公社)が送電網を管理しながら複数の独立系発電事業者(IPP)が競合する、東南アジア有数の電力市場です。太陽光・風力など再生可能エネルギーへのシフトを推進する15社が、エネルギートランジションの加速に取り組んでいます。
今回は、そんなタイの電力・ガス業界に焦点を当て、ローカル・日系・外資合わせて15社の最新情報をお届けしていきます!
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タイの主要電力・ガス企業11選〜ローカル編〜
EGAT(タイ発電公社)
1969年設立のタイ国営電力会社で、発電・送電・電力調達を一元管理するタイ最大のエネルギー事業体である。全国45か所に発電所を保有し、自社設備の総設置容量は1万5,548MWに達する。
2024年度の売上収益は71兆9,648億バーツ、純利益は4兆9,611億バーツ、総資産は135兆7,645億バーツと堅調な財務体質を維持した。再生可能エネルギーの契約容量は3,143.62MWで全体の19.36%を占める。
国際展開ではラオス・ベトナムの発電所に対する運転・保守サービス契約を更新するなど、域内での技術輸出を推進している。2025年にはHR Asiaの最優秀企業賞やAsia Pacific Enterprise Awardsのエネルギー部門受賞など、ESG面でも高い評価を得ている。
タイの電力需給を左右する政策的キープレイヤーとして、エネルギー転換計画(PDP2024)の実行主体でもある。
出典:https://www.egat.co.th/home/en/
Banpu PCL(バンプーPCL)
バンプーPCL(Banpu Public Company Limited)は1983年に設立されたSET上場の統合エネルギー企業であり、タイを本拠として石炭・ガス・電力・再生可能エネルギーの4分野を展開する。アジア・太平洋地域のエネルギーコングロマリットとして国際的な地位を確立している。
主要事業は石炭採掘(インドネシア・モンゴル・中国)、天然ガス(米国シェールガス)、発電(タイ・中国・オーストラリア)、再生可能エネルギー(太陽光・風力・蓄電池)の4本柱である。2024年の売上高は約515億バーツで、タイバーツ高による外為損失が響き純損失6,100万バーツを計上したが、EBITDAは1,191億バーツ(約34億ドル)を確保した。
2025年においても「Coal to Clean」戦略のもと再生可能エネルギーポートフォリオの拡大を継続しており、蓄電池事業(B.GRIMM Powerとの共同)や太陽光発電事業での新規投資を積み重ねている。
(参照:Banpu 2024 Annual Report、2025年3月公開)
出典:https://www.banpu.com/
B.Grimm Power PCL(BグリムパワーPCL)
B.Grimmグループ(1878年ドイツ人創業のタイ系複合企業)の電力子会社として2013年に設立され、SETに上場する。電力・蒸気の安定供給型事業者として産業団地のSPP(小型発電)と再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力)を両軸とする。
2024年度の正規化後の親会社帰属純利益は22億2,700万バーツ(前年比5.8%増)で、同年3月・10月・12月に合計420MWのSPP発電所3基の商業運転を開始したことが寄与した。
コミット済み再エネポートフォリオは1,345MW(韓国沖合風力740MWを含む)に達し、2025年には900MWの新規再エネ容量の追加を見込む。ADBとの再エネASEAN展開支援協定の締結やデータセンター向け電力(約2億300万米ドルの投資計画)など国際事業を拡大中である。
タイ国内ERC公募での60.9MW取得など、多面的に事業拡大を推進している。
出典:https://www.bgrimmpower.com/en/home
BCPG PCL(BCPGパブリックカンパニー)
BCPGパブリックカンパニー(BCPG PCL)は2015年にバンチャックコーポレーション(BCP)の再生可能エネルギー部門として設立されたSET上場企業(銘柄:BCPG)であり、アジア太平洋有数の再生可能エネルギー専業会社として太陽光・水力・風力・天然ガス事業を展開する。
2024年の純利益は1,819.6億バーツで前年比65%増を達成した。主要貢献はタイのタンクターミナルの全収益認識、米国の天然ガス発電所からの利益増加、ラオスの水力発電所からの収益拡大、日本の太陽光発電所の売却益である。
2025年には総額187億バーツの新規投資を計画し、ラオスの600MW Monsoon風力プロジェクト(ベトナムへ売電)とバンコク・サンヤームスマートシティの地域冷房システムの商業運転開始を予定している。2024年10月にはTISCO銀行から42億バーツ(約1.22億ドル)の融資を受け、タイ中央・東北部の太陽光発電プロジェクトを推進している。
(参照:BCPG公式サイト・2024年業績発表、2025年3月)
出典:https://www.bcpggroup.com/en/home
Electricity Generating PCL(EGCO:エレクトリシティー・ジェネレーティング)
エレクトリシティー・ジェネレーティングPCL(EGCO)は1992年にEGATの民営化推進の一環として設立されたSET上場の独立系発電会社(銘柄:EGCO)であり、タイ・フィリピン・ラオス・台湾・オーストラリアなど多国展開する総合電力会社である。
2024年の純利益は5,412億バーツで前年比165%増(13,796億バーツ増)を達成した。業績回復はオフショア風力(台湾・Yunlin)、フィリピン(Quezon発電所)、ラオス(Nam Theun 2)などの海外大型案件の改善によるもので、総収益は4兆6,341億バーツに達した。
2025年4月時点の総設備容量は運転中・建設中合わせて6,608MWeで、うち再生可能エネルギーは1,350MWe(20%)を占める。2025年前半の純利益は5,734億バーツで前年同期比88%増と引き続き好調である。2025年にはSET ESGレーティング「AA」とコーポレートガバナンス「優秀」評価を取得した。
(参照:EGCO公式サイト・2025年AGM発表、2025年4月)
出典:https://www.egco.com/en/home
Gulf Energy Development(ガルフエナジー)
2011年設立の民間独立系発電会社で、SETに上場するタイ最大の民間電力会社である。2024年4月末時点のエクイティ設備容量は7.6GWに達し、サラブリ・チョンブリ・ラヨーン各地でガス焚きIPP(合計最大5,000MW)を稼働させる。
再生可能エネルギーではEGATとの25年間PPAによる太陽光1,353.1MW(設置容量2,537.8MW)のほか、AIIBとADBから計8億2,000万米ドルの融資を獲得した。2024年にはコミットメント済み再エネポートフォリオが3,142MWに拡大し、2033年までに再エネ8GW体制を目指す。
2025年には再エネ・データセンター向けに200〜300億バーツを投資する計画で、LNG輸入も年間500万トンを予定している。
Hin Kong Power Plant(Gulf×RATCHのJV、合計1,470MW)の相次ぐ商業運転開始など、ガスから再エネへの移行を着実に加速させている。
出典:https://www.gulf.co.th/en/
GPSC(グローバル・パワー・シナジー)
2013年設立のPTTグループ傘下電力会社で、産業団地・工業地帯向けの電力・蒸気・冷水・処理水供給を主業とする。2019年にフランスのEngieよりGlow Energyの株式69.1%を約930億バーツで取得し規模を拡大した。
現在のエクイティ設備容量は電力2,811MW・蒸気1,557トン/時・処理水5,712m3/時・冷水3,400冷凍トンに及ぶ。2024年の総収益は907億3,000万バーツ、EBITDA1兆9,009億バーツ(前年比8%増)、純利益4,062億バーツを達成し、1株0.45バーツの配当を決議している。
戦略的にはSMR(小型モジュール炉)技術の可能性研究やPDP2024対応調査を進めているほか、PTT・GPSCのJVによる国際再エネ事業(GRP社)を設立し海外展開も視野に入れる。
産業団地のエネルギー安定供給と脱炭素化を両立させるユーティリティ企業として高い存在意義を持つ。
出典:https://www.gpscgroup.com/en/home
RATCH Group(ラッチグループ)
2000年設立(旧称Ratchaburi Electricity Generating Holding)のEGAT関連独立系発電会社で、SETに上場する。タイ・ラオス・オーストラリア・インドネシア等に跨る多国籍ポートフォリオを運営し、総エクイティ設備容量は1万815MWに達する。
うち再生可能エネルギーが2,972MW(27.5%)を占め、2030年に30%、2035年に40%への引き上げを目標とする。2024年上半期の中間配当は17億4,000万バーツを決議し、財務安定性を示した。
2024年にはHin Kong Power Plant Block 1、インドネシアのPaitan発電所、フィリピンのCalabangas Solar Farmが相次いで商業運転を開始した。2025年はタイ・ラオス・オーストラリア・インドネシアの重点市場で新規投資(予算150億バーツ)を進める方針である。
グリーン水素・SMR・蓄電池など次世代エネルギーの研究も進めており、エネルギー転換に向けた長期戦略を推進している。
出典:https://www.ratch.co.th/en/home
PTTEP(PTT探鉱開発)
1985年設立のPTTグループ傘下の上流石油・ガス開発会社で、タイ、ミャンマー、マレーシア、中東、アフリカなど世界規模でE&P(探鉱・生産)事業を展開する。
2024年の生産量は日量48万8,794バレル相当(前年比約6%増)、総収益は3兆2,741億バーツ(約92億7,300万米ドル)に達した。タイ国内ではG1/61、G2/61(ボンコット)、Arthit、S1など主要コンセッションを運営し、国産ガス供給の安定を担う。
2025年の設備投資予算は2兆6,194億バーツ(約78億米ドル)で、2025〜2029年の5か年計画では総額約212億米ドルを投じる予定である。政府への税・ロイヤルティ等の拠出は2024年で5,045億バーツに及ぶ。
中東・アフリカへの国際展開と並行して、国内ガス田の増産・延命に注力している。
出典:https://www.pttep.com/en/home.aspx
PTT PCL(PTTグループ)
2001年にSET上場した国営エネルギーコングロマリットで、タイ政府が約51%を保有する。天然ガスパイプライン・LNG輸入・ガス分離プラント・石油精製・石油化学・発電に至るバリューチェーン全体をグループ内でカバーし、PTTEP・GPSC・GC等を傘下に置く。
2024年度のグループ連結売上は3兆900億バーツ(前年比1.7%減)、純利益は900億バーツ(同19.6%減)と、LNG販売価格の下落が響いた一方でガス分離・パイプライン事業は増収を確保した。
2025年のインフラ投資額は250億バーツを計画し、国内エネルギー安全保障の強化と低炭素化を並行して推進している。
タイの電力・ガス業界における産業の屋台骨として、政策立案から事業実行まで幅広い影響力を発揮する。
出典:https://www.pttplc.com/en/home.aspx
Siamgas and Petrochemicals PCL(サイアムガス&ペトロケミカルズ)
サイアムガス&ペトロケミカルズPCL(Siamgas and Petrochemicals Public Company Limited)は、SETに上場する(銘柄:SGP)タイ有数の統合エネルギー・石油化学会社であり、家庭用・産業用・輸送用LPGの販売・流通、石油化学製品の取引、陸上・船舶による輸送サービス、油槽・港湾サービスを主な事業として展開する。
2024年の売上高は841億5,000万バーツ(前年比7.1%減)で、国際LPG市況の下落が響いた。2026年5月時点の時価総額は1兆3,600億バーツ超(約38億ドル)、EBITDAは1,630億バーツである。タイ国内では最大規模のLPGシリンダー製造・販売網を持ち、東アジア向け輸出も行う。
2025年に向けた売上高は前年比10%増の成長を見込んでおり、輸送サービス部門の拡充と石油化学製品の取引拡大が成長牽引役となっている。
出典:https://www.siamgas.com/
タイの主要電力・ガス企業3選〜日系編〜
J-Power Generation (Thailand)(ジェイパワー・ジェネレーション・タイランド)
ジェイパワー・ジェネレーション・タイランド(J-Power Generation (Thailand) Co., Ltd.)は、日本の電源開発株式会社(J-POWER)のタイ電力事業子会社であり、過去50年にわたりタイのエネルギー市場に深く関与している。
2024年10月にはEGCOとのJVでバンポン・クロンルアンの2ガスコジェネSPP案件(各130MW規模)への参画を発表し、タイ国内でのガスコジェネSPPプロジェクトが通算10件目となった。2024年1月にはEGCOコジェネSPPリプレースメント発電所(EGCO 80%・J-Power 20%)が商業運転を開始した。
2025年9月にはEGCOが両案件の49%持分をJ-POWERに売却し財務的柔軟性を高める取引も成立した。J-POWERは現在EPC重視から事業オーナー化への転換を進め、IPP・SPP分野での長期安定収益確保を戦略的柱としている。
出典:https://www.jpower.co.jp/english/
三井物産(タイランド)エネルギー部門(Mitsui & Co. (Thailand) Ltd. – Energy)
三井物産(タイランド)エネルギー部門は、三井物産株式会社のタイ現地法人が展開する発電・LNG・脱炭素投資を指し、タイ国内で民間最大規模のガス火力発電所投資を主導してきた。
2024年10月、Gulf Energy Developmentとのジョイントベンチャーによる5,300MWのGTCC発電所プロジェクト(チョンブリー・ラヨーン)が全8ユニット完工し商業運転を開始した。また2024年3月・2025年1月には1,400MWのHin Kong Power Plantの第1・第2ユニットが順次稼働した。三菱パワー供給の22基ガスタービンでタイ国内発電に14,000MW超を貢献している。
今後は持続可能な航空燃料(SAF)・水素・アンモニアなど次世代エネルギー事業にも取り組み、脱炭素分野でのアジア戦略の中核にタイを位置づけている。
出典:https://www.mitsui.com/th/en/business/1247936_14675.html
Marubeni Power (Thailand)(丸紅パワー)
総合商社・丸紅株式会社(1949年設立)の電力インフラ事業子会社である丸紅パワー&インフラシステムズ(MPSC)がタイで展開する電力事業の総称である。過去50年にわたるタイでのEPC受注累計容量は11GWに達し、タイ全国の総設備容量の約30%に相当する実績を誇る。
直近ではEGATより南バンコク・コンバインドサイクル発電所リプレースメント事業(1,200MW、EPC契約額約600億円、サイメンスとの共同)を受注した。
2025年からはMPSCが海外発電資産の運営管理とIPP開発事業をより重視する方向に経営方針を転換し、EPC中心から事業主へのシフトを進めている。再生可能エネルギー分野では丸紅グリーンパワー(Marubeni Green Power)がタイ・ベトナム等で産業・商業顧客向けの太陽光PPAサービスを提供している。
日系電力企業として最大の受注実績と長期的なパートナーシップ実績を誇り、タイ電力業界の日本企業代表格として位置づけられる。
出典:https://www.marubeni-mpsc.com/english/
タイの主要電力・ガス企業1選〜外資編〜
Engie Thailand(アンジー・タイランド)
フランスの国際エネルギー大手Engie S.A.(1858年創業)のタイ法人・アジア太平洋地域会社で、バンコクにアジア太平洋本部を置く。
2019年にタイ最大のIPP案件であるGlow Energyの持ち分をGPSC(PTT傘下)に約930億バーツで売却したが、その後も再生可能エネルギー・エネルギーソリューション・都市インフラ分野でタイ国内の事業を継続している。エンジニアリング子会社のTractebel-Engieはタイのエネルギープロジェクト向けコンサルティング・設計業務を展開し、タイ電力・産業分野のパートナーとして存在感を持つ。
Engieグローバルでは2024年末時点で再生可能エネルギー設備容量51GW(うち再エネ46GW)を保有し、2025年末までの57GW達成を目標とする。
タイでは日系・欧米系パートナーとの共同エネルギーソリューション提供も進めており、外資系電力会社の代表格として業界マップに記載する意義が大きい。
出典:https://www.engie.com/en/taxonomy/term/758
FAQ
タイの電力・ガス市場の特徴は?
タイの電力・ガス市場は急速に変化しており、特に再生可能エネルギーへのシフトが加速しています。政府は2037年までに再生可能エネルギーの比率を51%に引き上げる目標を掲げており、市場は今後も持続可能なエネルギー供給と革新的技術の導入を進めていく見込みです。
EGAT(タイ発電公社)の主な事業内容と電力供給の仕組みは何ですか?
EGATはタイの主要な国営電力会社であり、国内の発電、電力卸売、送電を担っています。46の発電所を所有し、総容量は約16,920MWです。電力は高圧送電網を通じて全国に供給され、地方及び都市の配電会社を経由して最終消費者に届けられるほか、一部は輸出も行っています。
タイの電力・ガス業界において、主要な私企業や外資系企業の役割は何ですか?
主要な私企業にはBanpuやB. Grimm Power、Gulf Energy Development、GPSC、EGCOなどがあり、これらは火力発電から再生可能エネルギー、インフラ事業に至るまで多角的に事業展開しています。外資系企業も技術や資金面で重要な役割を果たし、国内市場の競争促進と革新の推進に寄与しています。
日本の企業はタイの電力・ガス市場でどのように関与していますか?
日本の企業はタイの電力・ガス市場において、合弁事業や投資、技術提供を通じて重要な役割を果たしています。例として、三井物産とGulf Energyの共同ガス火力発電所建設や、J-Powerの水力・風力発電参画、また、電力の安定供給や再エネ導入の支援を行っています。
タイの電力・ガス業界の今後の課題と対策は何ですか?
タイの業界は再生可能エネルギー比率の拡大や脱炭素化に向けた取り組みを進めていますが、設備の効率化や安定供給、多様なエネルギー源の統合が課題です。これらに対して、新技術の導入やインフラ投資、国際協力を強化し持続可能なエネルギーシステムの構築を目指しています。

