シンガポールの加工食品業界は、健康志向や技術革新の高まりを背景に急成長しています。この記事では、シンガポール市場で存在感を放つ主要加工食品メーカー10社を、ローカル・日系・外資の視点から厳選し、各社の特徴や最新動向を徹底解説。現地進出やパートナー選定を検討する日本企業の皆様に、競争力強化のヒントをお届けします。
続きで各社の強みと市場戦略を詳しくご紹介します。
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シンガポールの主要加工食品メーカー5選〜ローカル企業編〜
Rotimatic (ロティマティック)
Rotimatic(正式名称Zimplistic)は、2008年にシンガポールでPranoti NagarkarとRishi Israniによって設立されたキッチンロボティクス企業であり、世界初のAI・IoT搭載全自動フラットブレッドメーカー「Rotimatic」を開発した。Rotimaticは、小麦粉、水、油を専用コンパートメントに投入し、ボタン一つで生地の計量・練り・成形・焼成までを自動で行い、約90秒で1枚のロティやチャパティ、トルティーヤなどを作ることができる。10基のモーターと15個のセンサー、32ビットプロセッサを搭載し、AIとIoTによる学習機能でユーザーの好みに合わせて品質を向上させる。さらに、スマートフォンアプリとの連携やクラウド経由のソフトウェアアップデートにも対応しているため、常に最新機能を利用できる点が特長である。
2024年には累計200万枚のロティを58カ国の10万世帯以上で生産し、グローバルな普及を果たしている。特に健康志向や時短ニーズの高まりを背景に、家庭での手作りフラットブレッドを簡単かつ均一な品質で提供できる点が評価されている。価格は999ドルからで、現在は米国、英国、中東、シンガポール、オーストラリア、欧州などで販売されている。2025年時点で年間売上は約2,380万ドル、従業員数は77名と推定されている。
近年は「Rotimatic NEXT」などの新モデルも投入し、多様な小麦粉やグルテンフリー素材にも対応、ノイズ低減や生地の練り精度向上、ビジョンAIによる焼き加減の自動調整など、より高度な機能拡張を進めている。Zimplisticは今後も家庭用ロボティクスとIoT技術を融合し、健康的で便利な食生活の実現を目指している。
出典:rotimatic.com/
Shiok Meats (シオク・ミーツ)
Shiok Meatsは2018年にシンガポールで設立された、東南アジア初の細胞培養によるシーフード・肉生産企業である。同社は世界で初めてエビ、カニ、ロブスターなどの甲殻類を細胞農業技術で開発し、従来の畜産や漁業に頼らない持続可能なタンパク源の提供を目指してきた。培養甲殻類分野の先駆者として、独自技術により幹細胞を甲殻類から採取し、栄養豊富な培地で増殖させることで、従来の養殖に比べて約4倍の速さで生産できる点が特徴だ。
2023年には培養エビの生産コストを1kgあたり50米ドルまで削減し、商業化に向けた大きな進展を遂げた。これは2020年時点の1kgあたり約7,000米ドルと比較して大幅なコストダウンであり、業界内外から注目を集めた。同社はシンガポール国内外の有力企業や投資家と連携し、研究開発や量産体制の強化を進めてきた。
Shiok Meatsの技術は、動物福祉・環境負荷低減・食の安全性向上という社会的要請に応えるものであり、抗生物質やホルモン剤を使用しないクリーンな生産が可能である。また、気候変動や過剰漁獲による水産資源の減少、伝統的な畜産の環境負荷といった課題に対し、持続可能な解決策を提示している。
2024年には同じくシンガポール発の培養魚企業Umami Bioworksとの合併を発表し、今後は「Umami Bioworks」として事業を統合する。これにより、甲殻類から魚類まで幅広い培養シーフード開発を加速し、規制承認や商業化のスピードアップを図る方針である。
出典:shiokmeats.com
Next Gen Foods (ネクストジェンフーズ)
Next Gen Foodsは2020年にシンガポールで設立されたフードテック企業であり、主力製品である植物由来の代替鶏肉「TiNDLE」を展開している。TiNDLEは大豆や小麦、ヒマワリ油、オート麦繊維など9種類の植物原料を独自にブレンドし、「lipi」と呼ばれる特別成分を加えることで本物の鶏肉に近い味や食感、風味を実現している。創業からわずか数年でシンガポール、香港、アムステルダム、ドバイ、アメリカなど世界200以上のレストランに導入され、2022年にはシリーズAラウンドで1億ドルを調達し、累計調達額は1億3220万ドルに達した。
TiNDLEはフライドチキンやナゲット、焼き鳥、唐揚げなど多様な料理に対応可能であり、消費者やシェフのニーズに応えるべく鶏肉特有の繊維質や脂の風味、汎用性を追求して開発された。ビジネスモデルとしては自社工場を持たず、各地のパートナーと提携してサプライチェーンを構築することで、グローバルな展開を加速している。
アメリカ市場には2022年から本格進出し、カリフォルニアやニューヨークなど主要都市のレストランやオンラインストアで販売を開始した。大手卸業者DOT Foodsを通じて全米50州での流通も実現している。また、2025年には植物ベース食品市場が世界で779億ドルに達し、2030年には1620億ドルに倍増するとの予測もあり、健康志向や環境配慮の高まりを背景に市場拡大が続いている。
出典:nextgenfoods.sg/
Old Chang Kee
Old Chang Keeは1956年にシンガポールで創業されたスナック・食品チェーンで、特にカリーパフをはじめとするローカルスナックで知られている。創業当初は小さな屋台からスタートしたが、1986年に現会長のHan Keen Juanが事業を買収し、近代的な工場への移転や品質管理の徹底、積極的な店舗展開によって、シンガポール国内外で100店舗以上を展開する大手ブランドへと成長した。
主力商品であるカリーパフは、サクサクの生地と香り高いフィリングが特徴で、現在では1日4万個以上が販売されている。メニューはカリーパフ以外にも、サーディンパフ、春巻き、フィッシュボール、チキンウィング、オタ(スパイシーな魚のすり身)、ナシレマやミーゴレンなど多彩なローカル料理や軽食を取り揃えている。また、テイクアウトが中心だが、一部店舗ではイートインやデリバリー、ケータリングサービスも提供している。
2025年3月期の連結売上高は1億195万シンガポールドル(前年同期比1.0%増)、純利益は1,135万シンガポールドル(同17%増)と、堅調な成長を維持している。特に2025年度上半期は、リテールと非リテール(デリバリーやケータリング等)両部門の売上増加が寄与し、純利益は前年同期比42%増の620万シンガポールドルとなった。
現在はシンガポール国内に加え、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、イギリスなど海外にも進出しており、アジアを代表するスナックブランドとしての地位を確立している。
出典:https://www.oldchangkee.com/
Prima Food
Prima Foodは、シンガポールに本社を置くPrima Limitedの完全子会社であり、1961年に製粉事業からスタートしたPrimaグループの食品製造部門である。主な事業はパンやケーキ、冷凍ベーカリー製品などの製造に加え、食品ペーストやソース、麺類、レトルト食品など多岐にわたる食品の開発・製造を手掛けている。代表的なブランド「Prima Taste」は1998年に誕生し、シンガポールの伝統料理を再現できる調味料キットやプレミアム即席麺、レトルトミールなどを展開している。
Prima Tasteのラクサ・ラミアンやカリー・ラミアンは、国際的な評価サイトで高評価を獲得し、全粒粉麺シリーズも健康志向の消費者から支持されている。現在、Prima Foodの製品は世界40カ国以上で販売されており、アジアを中心に欧米やオセアニアにも販路を拡大している。また、冷凍ベーカリーや即席麺、調味料、レトルト食品など多様な商品ラインナップで、家庭用から業務用まで幅広い需要に対応している。
近年は健康志向や時短ニーズの高まりを受け、MSG無添加や全粒粉使用、簡便調理が可能な商品開発を強化している。さらに、食品の安全性や品質管理の徹底、持続可能な原材料調達にも注力し、シンガポール政府の食品安全基準やグリーンプラン2030にも積極的に対応している。2025年現在、アジア太平洋地域の食品市場は消費者の健康志向やプレミアム志向の高まりを背景に4%前後の成長が見込まれており、Prima Foodもその成長市場で存在感を高めている。
出典:https://www.prima.com.sg/
シンガポールの主要加工食品メーカー2選〜日系企業編〜
Tokyo Fresh Direct (トーキョー・フレッシュ・ダイレクト)
Tokyo Fresh Directは2010年に東京都で設立され、日本産の生鮮食品や加工食品をシンガポールの高級小売店やレストラン、一般消費者に向けて卸売・小売を行う企業である。物流面では大田市場で仲卸が厳選した野菜や果物を、成田・羽田空港経由でシンガポールへ空輸し、高品質かつ新鮮な食材を現地に届けている。
2020年9月にはシンガポール向けのECサイト「Tokyo Fresh Direct」を開設し、青果や鮮魚、加工品、日本酒など約400品目を個人宅配送で提供している。2021年にはレストランや中小規模小売店向けの会員制EC「Tokyo Fresh Direct Biz」も開始し、小ロットから手軽に日本産食材を仕入れられる仕組みを整えた。これにより、単独では輸入が難しい事業者も高品質な日本産食材を低コストで調達できるようになった。輸出業務の効率化やダメージリスク予測、貿易書類の自動生成などITを活用した独自の農水産物流通プラットフォームを構築し、2023年末までに売上8億円を目標にASEANを中心とした販路拡大を進めている。
シンガポール市場ではシャインマスカットやサツマイモ、柑橘類など日本産高級果実や野菜の需要が高く、現地の高級スーパーや飲食店、富裕層を中心に支持を集めている。今後も日本の生産者と連携し、品質と鮮度にこだわった食材供給を強化しながら、現地消費者の多様なニーズに対応した商品開発とサービス拡充を図っていく方針である
出典:https://tokyofreshdirect.com/
Nissin Foods (ニッシン・フーズ)
日清食品ホールディングス株式会社は、世界初のインスタントラーメンを生み出した日本発の食品大手であり、2025年3月期の連結売上高は7,766億円(前年同期比6.0%増)、当期純利益は550億円(同1.6%増)と堅調な成長を維持している。利益率は7.1%で、経費増加の影響でやや低下したものの、国内外での即席麺・カップ麺の販売が引き続き好調である。
アジア太平洋地域では、シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、カンボジア、フィリピンなどに現地法人や工場を展開し、即席袋麺やカップ麺の製造・販売を強化している。特にシンガポールでは「NISSIN FOODS SINGAPORE PTE, LTD.」が拠点となり、現地市場に合わせた商品展開や新フレーバーの導入を進めている。2015年に現行の法人として設立され、現地市場のニーズに合わせた商品展開や流通強化を進めている。
同社は「NISSIN CUP NOODLES」「NISSIN RAMEN BOWL」「NISSIN U.F.O.」シリーズなど、シンガポールや東南アジアの食文化や嗜好に合わせた多彩なフレーバーの商品を展開しており、ローカル限定のフィッシュヘッドカレーやトムヤムシーフード、ブラックペッパークラブ、ラクサなど現地独自の味も人気を集めている。また、グラノーラやコーンフレーク、スナック菓子など即席麺以外の食品も幅広く取り扱っている。
出典:https://www.nissinfoods.com.sg/en_sg/
シンガポールの主要加工食品メーカー3選〜外資系企業編〜
Food Empire Holdings (フードエンパイアホールディングス)
Food Empire Holdingsは、シンガポールに本社を置く多国籍食品・飲料メーカーであり、1992年の設立以来、世界60カ国以上に製品を展開している。主力事業はインスタントコーヒーミックスやカプチーノ、チョコレートドリンク、フレーバーティー、バブルティー、インスタントシリアル、ポテトチップスなど多岐にわたる。自社ブランドにはMacCoffee、Café PHO、Petrovskaya Sloboda、Klassno、Hillway、Kracksなどがあり、特にMacCoffeeはロシアやウクライナ、ベトナム、中央アジアで圧倒的なシェアを誇る3-in-1インスタントコーヒーのリーディングブランドである。
2024年度の連結売上高は前年比11.9%増の4億7,630万米ドルと過去最高を記録し、東南アジアや南アジア、ウクライナ・カザフスタン・CIS地域での2桁成長が業績を牽引した。一方、純利益はコーヒー豆価格の高騰や為替変動の影響で前年同期比11.4%減の5,003万米ドルとなったが、全体としては4期連続の増収を達成している。
グループは世界23カ所にオフィスを構え、マレーシア、インド、ベトナム、ロシア、ウクライナなど5カ国で8つの製造拠点を運営している。B2B向けにはフリーズドライやスプレードライのインスタントコーヒー、ノンデイリークリーマーなどの原材料も製造・供給している。
ブランド戦略としては、各国市場の嗜好に合わせた商品開発や現地プロモーションを積極的に展開し、地域ごとのブランドローカライズを強化している。また、持続可能性にも注力し、ESG経営や環境負荷低減、従業員の多様性推進なども推進している。
出典: https://www.foodempire.com
Golden Agri-Resources (ゴールデンアグリリソース)
Golden Agri-Resources(GAR)は、シンガポールに本社を置く世界最大級のアグリビジネス企業であり、主にインドネシアで50万ヘクタール超のパーム油プランテーションを管理している。1996年設立、1999年にシンガポール証券取引所に上場し、現在は食品・油脂化学・動物飼料・バイオエネルギーなど多様な分野で事業を展開している。2024年の連結売上高は前年比12%増の109億米ドル、純利益は3億6,500万米ドルに達し、過去最高の販売量1,190万トンを記録した。
GARは上流のパーム油生産から下流の精製・特殊製品製造まで一貫したバリューチェーンを持ち、欧州や米国、アジア、中東、アフリカなど世界100カ国以上に製品を供給している。近年は欧州向けに高品質で持続可能なパーム油の供給体制を強化し、2024年にはオランダの新興企業Verborg Groupと独占的な長期供給契約を締結した。
サステナビリティにも注力し、2050年までのネットゼロ達成と1.5℃目標へのコミットメントを掲げ、温室効果ガス排出削減や小規模農家支援、サプライチェーンの透明性向上などを推進している。また、パーム油生産は雇用創出や貧困削減にも寄与しており、インドネシアの農村地域の発展に貢献している。
出典: https://www.goldenagri.com.sg/
Good Meat (グッドミート)
GOOD Meatは、シンガポールにおいて世界で初めて培養肉の商業販売を実現した企業であり、2020年12月にシンガポール食品庁(SFA)から培養鶏肉の販売承認を取得したことで注目を集めた。この培養鶏肉は、動物細胞を培養して生産されるため、従来の畜産に比べて環境負荷が低く、食料安全保障や持続可能性の観点からも高く評価されている。
2024年5月には、シンガポールの高級精肉店Huber’s Butcheryで「GOOD Meat 3」という新商品が小売販売開始となり、一般消費者が家庭で調理できる世界初の培養肉製品として話題となった。この製品は培養鶏肉を3%配合し、残りは植物性タンパク質や油脂などで構成されており、120gパックが7.20シンガポールドル(約830円)で販売されている。栄養面でも従来の鶏肉と同等以上のタンパク質量を持ち、消費者は家庭料理に取り入れることができる。
GOOD Meatはこれまで高級レストランやフードデリバリー、屋台などで数量限定販売を行ってきたが、今回の小売展開によって培養肉の普及が一段と進むと期待されている。また、シンガポール政府が推進する「30×30」政策(2030年までに食料自給率30%達成)にも貢献しており、地元生産によるタンパク質供給の多様化と安定化を目指している。
出典: https://goodmeat.co/contact
2017年よりシンガポール在住の日本人。元客室乗務員。大学ではマーケティングと経済を学び、卒業後は海外での生活と旅行を重ね、さまざまな国の文化や人々、食に関する豊富な知識を身につける。シンガポール人の旦那との結婚を機にシンガポールに移住し、現地で就労。現在はライター業と翻訳業を行っている。