この記事では、統計データを用いてインドネシアの流通・小売業界の最新情報をお届けしていきます!
読了時間の目安:5分
インドネシアのスーパー・コンビニエンスストア事情〜統計データ〜
小売業界を占める伝統的小売
米国農務省のレポートによると、インドネシアのスーパーマーケットの施設数は2021年で1,411店あり、人口2.6億人なので100万人あたり約5店程度である。この数は、シンガポール(100万人あたり61店) 、マレーシア(100万人あたり43店) 、タイ(100万人あたり16店) 、フィリピン(100万人あたり15店)と比較すると非常に少なく、まだ成長の余地がある市場だと言える。
しかし、6年前の2017年に1,377店であったことから、インドネシアにおいてスーパーの浸透度が鈍足化しているとも言える。その背景のひとつに、地方の流通の近代化がなかなか進まないことが挙げられる。
一方、規模の小さいミニマート(コンビニ)の店舗数は5年前より22%増え、伝統的小売に取り替わってきているが、インドネシアではまだまだ圧倒的に伝統的小売の比率が高い。
出典:USDA(米国農務省)
コンビニエンスストアの台頭
スーパーマーケットやハイパーマーケットなどの中~大型の小売店は、現在コンビニエンスストアとの競争激化に直面しており、2017-2021年の間のスーパーマーケットの年平均成長率は(CAGR)6.9%減、ハイパーマーケットは20.0%減とマイナス成長である。一方で、コンビニエンスストアの年平均成長率は5.6%増とプラス成長をしている。
これは、インドネシア人の消費スタイルが食料品のまとめ買いから小規模だが頻繁な購入へとシフトしつつあり、利便さをより購入の動機に挙げることが多くなっていることを示している。
さらに、コンビニエンスストアなどの小規模小売店の運営は、人口が多く土地価格の高い都市部や人口は少ないが土地の運用が容易な郊外などでも展開できることに強みを持っている。
出典:USDA(米国農務省)
インドネシアの百貨店・ショッピングセンター事情〜統計データ〜
じり貧の危機にある百貨店業界
インドネシアの百貨店業界で上場する会社はPT Matahari Department Store TbkとPT Ramayana Lestari Sentosa Tbk、PT Matahari Putra Prima Tbk(MPPA)の3社がある。2017年から2021年の3社の売上高の合計は平均年率15.5%で減少している。とりわけ、Covid-19パンデミックの影響で2020年は大きく落ち込んだ。
百貨店業界の動向は、Covid-19 パンデミック前の2017年から2019年を見てもすでに緩やかな減少傾向にあった。様々なブランドを集めた大型ショッピングモールやファッション小売りチェーン店の出現、さらにネット通販の急速な普及によって、百貨店の役割に変化が出てきている。
出典:各社アニュアルレポートより作成
新型コロナウイルスの影響
米国農務省の調査レポートによると、2017年から2019年は330店前後で横ばい状態であったハイパーマーケット店舗数が、Covid-19 パンデミックが起こってから2020年は311店舗へ、2021年はさらに減って285店舗と2019年比85%となった。
また、売上高は2019年23.2億USDであったものが、2020年は14.9億USD、2021年は10.8億USDと2019年比47%と半分以下となった。インドネシアではレクレーション感覚で大型商業施設へ家族で出かける人々が多かったが、パンデミックで外出できなくなり生活様式が大きく変化したため、ハイパーマーケットでの売り上げの大幅減少とそれによる閉店が増えたものと考えられる。
出典:USDA
インドネシアのドラッグストア事情〜統計データ〜
薬剤師・製薬技術者が増加
インドネシア国保健省は毎年「Profil Kersehatan Indonesia(インドネシア健康プロファイル)」というレポートを発行している。その中で医療従事者の人員数が報告されており、医薬品に関しては薬剤師と製薬技術者の合算人員数が報告されている。
2014年に国家健康保険制度を導入したインドネシアは、順調に加入者数が伸び、2014年の133百万人から2020年には222百万人へと増えた。これに呼応するように薬剤師・製薬技術者の数も2017年から2021年にかけて約2倍に増加している。
出典:保健省
医薬品の主要チャネル
インドネシアの保健省の「インドネシア健康プロファイル」によると、APOTEKとドラッグストアを合算した店舗数は2017年から2021年まで約4万店を横ばいの状態で推移している。構成はドラッグストアが減って、その分APOTEKが増えている。
現在、医薬品の生産施設と流通施設のほとんどがスマトラ島とジャワ島にあり、生産施設の95.4%と流通施設の77.8%を占めている。保険省では、スマトラ島とジャワ島以外の地域での医薬品および医療機器の生産施設と流通の数を開発することが課題とされている。
出典:保健省
インドネシアのアパレル事情〜統計データ〜
輸出主導の女性向けアパレル市場
2020年度のレディースアパレル市場の貿易総額は25.3億USDで、内訳は輸入額が1.9億USD、輸出額が23.4億USDであった。輸出入ともに約2/3を占めるのはメリヤス編みやクロセ編みでない製品で、ジャンル別では、1位がスーツ・ドレス・スカートなど、2位がブラウス、シャツなど、3位がコート類となっている。
主な輸出先は、米国(57.4%) 、日本(9.1%) 、ドイツ(5.5%)で、主な輸入元は、中国(50.3%) 、バングラデシュ(7.1%) 、ベトナム(5.1%)である。日本向けの輸出については、2007年締結されている。自由貿易協定(FTA)で9割に上る品目が関税撤廃を実現し、取引額が増加し続けているが、2020年はCovid-19の影響で日本向けだけでなく世界各国への輸出が落ち込んでいる。
出典:UN Comtrade
パンデミックで成長減速
国民全般の生活水準の向上と可処分所得の増加による需要の拡大により、2019年までは順調にテキスタイルとアパレル業界の名目GDPは伸びていた。女性の社会進出が進む中、レディースアパレル販売では購買力のある女性消費者が業界の成長を牽引している。
さらに、アクセサリーやイスラム教徒の女性達という固定客が存在するイスラムファッションの売れ行きも好調だったことや、SNSでの情報発信が普及したことにより、若年層を中心にファッションとしてのスポーツウェアが人気を博したことなども市場を牽引していた。
しかし、2020年にCovid-19 パンデミックの発生で外出制限が行われたことなどがアパレル業界にとっては逆風となり、GDPは低下した。それでも、2017年から2021年の平均年間成長率(CAGR)は4.6%であった。
出典:インドネシア銀行
インドネシアの通販・ネット通販事情〜統計データ〜
e-コマース企業数トップは卸売・小売
2017年No.74大統領令でe-コマースロードマップを設定したインドネシア政府では、その進捗を確認するため、BPS (中央統計庁)によって初めてe-コマース統計が発行された。統計によると、2020年のe-コマース企業数は約236万社であった。
業種別のe-コマース企業数のトップ3は、1位が卸売・小売で46.1%、2位が加工産業で17.1%、3位が宿泊・飲食で15.6%となり、トップ3業界だけで全体の80%近くを占めている。TokopediaやShopeeといったネット通販プラットフォームの急速な成長に伴い、今後ますますe-コマース企業数は増えるものと予想される。
出典:BPS
食品とファッション部門
BPS (中央統計庁)の「Statistik E-Commerce 2021」によって行われた、e-コマースで取り扱われている商品を複数回答可で各社にヒアリングした調査によると、最もよく取り扱われている商品ジャンルは食品・飲料・食材で40.9%の会社によって取り扱われている。また、2位は衣料品とアクセサリーで20.7%、3位は家庭用品で10.3%、4位は化粧品・トイレタリーで8.1%、5位は娯楽・趣味・スポーツで7.2%と続いている。
Covid-19パンデミック前の2019年の1位はやはり食品・飲料・食材であった。しかし、割合は27.9%であり、インドネシアでも巣ごもり需要で食品・飲料・食材の取り扱いが増えているのがわかる。
出典:BPS
インドネシアの家電量販店事情〜統計データ〜
携帯電話販売業界に地殻変動か
携帯電話を販売する上場企業3社、Erajaya、Oke Shop、Global teleshopの販売推移を見ると、Erajayaのひとり勝ちの状態になっている。Erajayaのシェアは、2017年の90%が2021年には 99%になっている。
アップルのiBOXを傘下に収めているのをはじめ携帯各社の機種を幅広く取り揃えるErajayaは、インドネシア全土に1,218店(2021年年末時点)の店舗網をはりめぐらし、他の2社とは圧倒的な戦力の差がある。他の2社はErajayaとの戦いだけでなく、近年急速に伸びているオンライン販売との激しい競争の中で、事業規模が縮小している。
出典:各社アニュアルレポートから抜粋した販売高推移
売る方から作る方に関心がシフト
インドネシアの携帯電話(HS:8517.12)とスマホ・モバイル端末(HS:8517.62)の輸出入金額の推移を見ると、2017年は輸入が939百万USDで輸出が107百万USDと、輸入が輸出の9倍であった状態であった。よって、2021年は輸入が1,719百万USDで輸出が1,321百万USDと、輸出入が拮抗するところまで大きく変化している。
また2021年の輸出の内、1,015百万USDは映像の送受信ができるスマホ・モバイル端末で、2018年の50百万USDから20倍以上に増えている。これは米中貿易摩擦で生産シフトが起こっていることが原因として挙げられ、今後の動向が注視される。
出典:国連データベース
インドネシアの家具・インテリア・生活雑貨・ホームセンター事情〜統計データ〜
年率約2割で伸びた輸入家具数
インドネシアの家具(HSコード:9403)の輸出は2017~2019年までほぼ横ばいで推移していたが、Covid-19パンデミック発生後の2020年が12.7億USD、2021年が16.6億USDと大幅に増加した。また、2021年の輸出先トップ3は、1位がアメリカで9.6億USD、2位が日本で1.5億USD、3位がオランダで0.8億USDであり、上位3か国で全体の70%以上を占めている。
ちなみに2019年のトップ3も同じ顔ぶれで、1位がアメリカで5.6億USD、2位が日本で1.3億USD、3位がオランダで0.6億USDとなり、輸出の増加はアメリカに負うところが大きいことがわかる。一方、輸入は平均年率20%で増加し、2021年の輸入金額は3.9億USDで、1位の中国が輸入総額の87%を占め圧倒的に強い状況である。
出典:UNデータベース
平均的な家具業界の名目GDP成長率
インドネシア銀行のデータによると、インドネシアの家具産業の名目GDPは2017年の33.9兆ルピアが2021年には42.2兆ルピアへと増加し、年平均成長率は5.7%であった。2017年から2021年のインドネシア全体の名目GDP年平均成長率が5.7%であったことから、インドネシアの家具業界の成長率は平均的だと言える。
家具(HS:9403)の輸出金額が2021年16.6億USD(2017年比148%)で大幅に伸びたことは、2020年に一旦GDPが前年割れした状態から2021年に再度成長軌道に乗せることができたインドネシアの家具業界にとって追い風であったと言える。
出典:インドネシア銀行
インドネシア在住のインドネシア人。観光ガイドと通訳者を務め、インドネシアの観光地を日本語で案内している。日本語学科の大学を卒業し、邦人対応観光ガイド・国際イベントでの日本代表団担当連絡係員・通訳者・日本領事事務所長の地元アシスタントを経験。