この記事では、統計データを用いてシンガポールの金融・法人サービス業界の最新情報をお届けしていきます!
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シンガポールの銀行事情〜統計データ〜
シンガポールの銀行数推移
シンガポールに拠点を置く銀行は駐在事務所を含め約200行に上り、資産運用会社、保険会社などを含めると金融機関は1,200社以上で、アジア有数の資金調達拠点と言える。国際決済銀行(BIS)の調査では、外国為替取引高でシンガポールは世界3位(2019年4月時点)で、アジア最大の外為取引市場である。
資産運用残高は2018年末時点で3兆4,370億Sドルと、前年比5%拡大した。また、大手の富裕層向け資産管理(プライベートバンキング)の多くが拠点を置いており、アジアの資産管理拠点として注目されている。過去の進出状況から、過剰気味だった銀行店舗数について、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により撤退する銀行も出てきており、年々減少している傾向にある。
出典:Singapore Department of Statistics
シンガポールのクレジットカード保有者数
シンガポールはアジアの中でもっともキャッシュレス化が進んでおり、ホテルやタクシー、飲食店などクレジットカードが活躍する場面は多い。VISA、MasterCard以外にも、JCBといった日本でおなじみのブランドが使える店が数多くある。
また、バスや電車(MRT)などの交通公共機関を利用する際は、日本のsuicaやPASMOのようなチャージ式の交通系ICカード、ez-LINK、またはNETS FlashPayがあると利便性が高い。
しかし、クレジットカードが普及しているとはいえ低所得者も多く、シンガポールでクレジットカードを作るとなると、年収によって審査が通らない場合もある。そのため、銀行口座から直接引き落とされるデビットカードの利用者も多い。
出典:Singapore Department of Statistics
シンガポールの証券事情〜統計データ〜
シンガポール取引所配当利回り推移
シンガポールはアジアトップの先進国となっているが引き続き成長を続けており、成長率は3%以上の水準を維持している。こういった背景からシンガポール取引所は配当金を増額し、配当利回りは4%という高い水準となっている。
既に高い成長を成し遂げているシンガポールだが、諸外国は同国のさらなる発展を見越して、同国への投資を積極化している。実際に、シンガポールは小さい国土にもかかわらず、2019年の外国直接投資(FDI)流入額の高さではアジア太平洋地域で中国に次いで2番目となっている。
東南アジアの中心に位置するシンガポールは製造業主体の経済から変貌を遂げ、今では金融、医療、物流、情報、教育、研究開発など、様々な分野でアジアのハブとなっている。
出典:Singapore Department of Statistics
アジア主要国の信用格付
シンガポールは、S&P、ムーディーズ・インベスターズ・サービス、フィッチ・レーティングスの大手格付け3社の全てがAAA格付けを付与しているアジアで唯一の国である。高い格付けの要因としては、健全な財政政策や潤沢な外貨準備高、政治の安定性が挙げられる。
格付は、資産の安全性を示す指標であり、シンガポール国債は諸外国の国債と比べても比較的安全な資産とされている。よって、シンガポールがメインに組み込まれたETFのポートフォリオ平均格付けも高い格付けにある。
安全性資産なのでリスク資産である株式ほどのリターンは期待できないが、株式と持ち合わせることによって、特に金融危機などのリスクイベント発生時には、リスク低減効果が期待できる。
出典:SBI 証券
シンガポールの保険事情〜統計データ〜
シンガポールの保険料内訳
個人生命保険新契約のうち、「運用成果にリンクしない商品」(non-linked、通常の有配当商品および無配当商品)は934,456件(89.9%)、「運用成果にリンクする商品」(linked、変額保険)105,269件(10.1%)となっている。
運用成果にリンクしない商品の内訳は、終身保険8.3%、養老保険22.7%、定期保険11.0%、その他58.0%(重大疾病保険や所得補償保険など)である。一方、運用成果にリンクする商品の内訳は、終身保険83.1%、養老保険16.9%である。
また、自動車保険会社は近年で好転したが、COVID-19のパンデミックの際の全体的な道路交通状況の改善と空の旅の主要な活動の停止によって2020年には減少した。
出典:Singapore Department of Statistics
シンガポールの支払い保険金額推移
シンガポール生命保険協会(Life Insurance Association of Singapore、LIA)の統計によれば、生命保険の販売チャネルとしては1社専属の営業職員が件数ベースの占率で約6割を占めるが、年換算保険料ベースの占率で見ると、直近5年間で約5割から約4割に低下している。
銀行窓販は件数ベースの占率では1割強に過ぎないが、年換算保険料ベースの占率は4割弱を占め、一時払商品を中心とした販売が行われていることがうかがえる。その他とされるチャネルは、営業職員や銀行などの保険仲介者を介さずに販売されるDirect Purchase Insurance(DPI)と称される直販商品などであり、年換算保険料ベースの占率は低いが、件数ベースでは1割を超えている。
出典:Singapore Department of Statistics
シンガポールの法律事務所事情〜統計データ〜
シンガポールの弁護士数
2020年から2021年にかけて、シンガポールで実務を執行している弁護士数は6.3%増加して6,333名となっている。アジア地域における企業間の紛争や企業買収などのビジネスニーズにより、ビジネスハブであるシンガポール国内におけるニーズの高まりを反映している。
また、企業の海外進出のサポートやファイナンスにおけるアドバイザリー業務などの領域においても、近年企業のビジネス展開に沿った業務内容が増加傾向にあり、弁護士事務所の役割が多様化しつつある。
クロスボーダー案件や専門性の高いスキルが求められつつ、広範な領域をカバーする必要があり、引き続き大手法律事務所の優位性があると考えられている。
出典:Law Society of Singapore
シンガポールの弁護士登録年数
弁護士登録をしてからの経過年数を比較すると、15年以上のキャリアがある弁護士が39%である一方で、15年未満である弁護士数が61%と多い。近年では、ビジネスの流れに沿った知識の拡充や未知の事案に対応できる柔軟な発想が求められており、比較的若い人材が半数以上を占めている点において好ましい環境と言える。
また、昨今のトピックである法曹業界におけるテクノロジー導入支援を政府が打ち出しているので、若手人材が必要となってくると思われる。書類の内容を自動で判別するAIの台頭により、法律事務所もIT業界との接近が必要と考えられており、デジタルに親しんでいる世代への移行が促進する可能性がある。
出典:Law Society of Singapore
シンガポールの会計事務所事情〜統計データ〜
会計事務所の規模別営業収益
業界全体の2020年度における総営業収益は24.9億SGDで、2019年の25.9億SGDから3.7%減少した。2020年のBig4の収益は前年より5.4%減の17億1,630万SGDで、全体の69%を占めていた。従業員が101人~999人の大規模会計事務所の収益は、前年より9.6%の増加で唯一増加を示したセグメントだった。収益は2億9,890万SGDで、全体の12%を占めていた。
最も営業収益を落としたのは従業員が31人~100人の中規模会計事務所で、前年より14.4%減の1億1,700万SGDであり、全体の5%であった。10人~30人の小規模会計事務所や10人未満のマイクロ会計事務所は各々1%強の減で、全体に占める割合は小規模会計事務所が9%、マイクロ会計事務所が5%だった。
出典:AE CENSUS 2021
会計事務所の営業収益の内訳
2020年においても、会計監査が引き続き会計事務所の主な収益源となっていて、2019年と同様に2020年の市場総収益の半分近くを生み出している。また、従来のサービス(監査および保証、企業支援サービス、税務関連サービス)が収益の約75%を占めている。
残りの25%は、事業評価やリスク管理など、さまざまな種類のアドバイザリーサービスから生み出されている。規模別の収益構造を比較すると、Big4と大規模事務所は多様なビジネスを展開しており、収益の45%は会計監査によるものだ。
また、中規模からマイクロ規模の会計事務所は63%以上の収益を会計監査から得ている。また、Big4の収益の約32%がビジネスアドバイザリーサービスから得られているが、大規模事務所では19%、それ未満の規模の事務所では5%以下で、アドバイザリー業務はあまり行われていないことがわかる。
出典:AE CENSUS 2021
シンガポールの人材サービス事情〜統計データ〜
シンガポールの失業率推移
1980年代の中頃までシンガポールの失業率は6%を超えており、失業率が低いとは言えなかった。しかし、そこからシンガポールは経済的に急成長しており、1990年から1998年にかけては2%を切るほど低い失業率となった。労働法による雇用側の保護が強く進んでおり、失業率は低く抑えられている点などからも、国としての政策のバランスが取れているといえる。
しかし、2019年末に発生した新型コロナウイルスによる世界的な不況の影響を受け、失業率は4%半ば近くまで上昇する結果となったが、翌年の2020年には3.6%まで戻っている状況だ。よって、シンガポールの雇用環境は良好といえる。
出典:macrotrends
シンガポールの労働人口推移
シンガポールの2022年の就労者数は約250万人ほどである(外国人メイドを除く)。2019年は新型コロナウイルスに伴う景気減速により、就労者数の落ち込み幅は過去約20年で最大となった。2020年通年の解雇者数は、2万6,110人と2019年の1万690人と比べて2倍以上に増加した。
しかし、世界経済危機があった2009年(2万3,430人)や、ITバブル崩壊の打撃を受けた2001年(2万7,570人)、アジア経済危機があった1998年(3万2,800人)の解雇者数は下回っている。2020年の解雇者数の分野別では、新型コロナウイルスに伴う渡航規制や安全対策により、サービス分野の解雇者が1万9,760人と全体の76%を占めた。
出典:Ministry of Manpower
2017年よりシンガポール在住の日本人。元客室乗務員。大学ではマーケティングと経済を学び、卒業後は海外での生活と旅行を重ね、さまざまな国の文化や人々、食に関する豊富な知識を身につける。シンガポール人の旦那との結婚を機にシンガポールに移住し、現地で就労。現在はライター業と翻訳業を行っている。