この記事では、統計データを用いてタイの金融・法人サービス業界の最新情報をお届けしていきます!
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目次
タイの銀行事情〜統計データ〜
タイの政策金利の推移
タイ中央銀行(BOT)は2022年11月に金融政策委員会を開催し、政策金利を従来の1.00%から1.25%に0.25ポイント引き上げた。タイでは2018年頃から景気が停滞しており、さらに2020年初めの新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限のため、2020年5月から政策金利を過去最低の0.50%としていた。
その後、国内および国境の新型コロナウイルスに関する規制が撤廃され、観光業の回復とともに経済活動が活発化してきた2022年8月頃から、徐々に金利を上げてきている。これに伴い、タイの各商業銀行も預金金利やローン金利の引き上げを進めている。今後のタイの経済は、インフレのリスクがあるものの、観光業や底堅い個人消費に支えられ一定の成長が期待されている。

出典:Bank of Thailand
拡大するタイのオンラインバンキング市場
タイ中央銀行(BOT)のデータによると、2021年のタイのモバイルバンキングの取引額(推定値)は57.3兆バーツ、インターネットバンキングの取引額(推定値)は27.2兆バーツであった。それぞれ前年より伸びを示したが、特にモバイルバンキングは前年比42%の増加であり、2017年から年々大きく成長してきている。
タイでは携帯電話普及率が100%以上、銀行口座保有率も90%を超えており、オンラインバンキングが浸透しやすい環境といえる。例えば、タイ政府によりプロムペイ(Prompt Pay)というQRコード支払いの共通プラットフォームが整備されており、モバイルバンキングが日常的な決済方法となっている。その他にも各銀行がオンラインで利用可能なサービスを広げ、顧客獲得を図っている。

出典:Bank of Thailand
タイの証券事情〜統計データ〜
タイの株式市場の動向
タイ証券取引所(SET)のレポートによると、2021年のSET上場企業の時価総額は19.6兆バーツで、前年比21.5%の増加であった。また、上場の全銘柄を対象として算出されるSET指数も、2021年末は1657.62と前年比で14.4%増加した。2021年には新型コロナウイルスに関する制限が緩和され、各企業において状況への適応と業績の回復がより早いペースで見られた。
特に輸出分野と観光産業の回復が外国人投資家にとって魅力的とされ、タイ市場への投資が戻りつつある。さらに、テクノロジー分野、消費財分野、金融分野もSET指数の平均よりも高い成長率を示した。中小企業向けの市場であるmaiも堅調な成長が見られ、SETとmaiを合わせた時価総額は20兆バーツを突破した。

出典:SET, Annual Report 2021
ASEAN各国の株式市場
世界銀行(The World Bank)のデータによると、2020年のASEAN主要6か国の株式市場時価総額はシンガポールが6,526億USDで第一位、続いてタイ(SET)が5,432億USDであった、以下、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの順であった。新型コロナウイルスの感染拡大によりほとんどの国が前年比減であったが、マレーシアとベトナムは前年より伸びを示した。
SETでは多様な投資を実現するため、他国と協力して様々な取り組みを行っている。例えば、シンガポール証券取引所(SGX)と協力し、預託証券という形で市場を跨いだ投資が可能な商品を開発している。また、深圳証券取引所(SZSE)と提携し、SZSEのV-Nextという投資プラットフォーム上で、タイの電気自動車(EV)関連の上場33社の情報を提供している。

出典:The World Bank
タイの法律事務所事情〜統計データ〜
タイの民事裁判件数の推移
タイ国家統計局(National Statistical Office)のデータによると、タイの2021年の民事裁判の件数は28.54万件であった。前年から1.2%増加し、2018年から年々増加してきている。一方、裁判所別の内訳では最高裁が1,449件、上訴裁判所が9,886件、第一審裁判所が27.21万件と、最高裁、上訴裁判所の件数は次第に減少してきている。
民事裁判が一般化している一方で、控訴に至らない案件が増えていることが示唆される。実際にタイでは賠償金が5万バーツ以下の民事裁判の場合、控訴するためには一定の条件を満たす必要がある。案件の種類では、傷害への賠償請求、契約違反、債務整理、医療過誤に関するものが多い。

出典:National Statistical Office
タイの刑事裁判件数の推移
タイ国家統計局(National Statistical Office)のデータによると、タイの2021年の刑事裁判の件数は72.91万件であった。前年より13.5%減少し、2019年をピークに減少傾向が見られる。タイは総じて治安は悪くない国であるが、銃乱射事件などの凶悪犯罪もまれに見られる。日本人をはじめとした外国人に対する詐欺も報告されている他、近年では反政府デモが発生し、デモ隊と治安当局との激しい衝突が起こることもある。
また、薬物にも注意が必要で、2022年6月には医療目的に限り、多幸感を覚える作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の含有率が2.5%以下の大麻の使用が合法化されたが、娯楽目的に使用されているケースが散見されている。

出典:National Statistical Office
タイの会計事務所事情〜統計データ〜
タイで増加し続ける日系企業
日本貿易振興機構(JETRO)によって2021年3月までに行われた調査によると、タイに進出している日系企業の数は5,856社で、前回調査が行われた2017年よりも412社増加していた。業種別では、製造業が2,344社で全体の40.0%と、前回よりも全体に占める割合は減少したのに対し、非製造業は3,256社で全体の55.6%と全体に占める割合が増加した。
特に、広告や飲食店などのサービス業が前回の調査の896社から121社増加し計1,017社となり、初めて1,000社を突破した。また、出資者の規模別に見ると、大企業が2,479社で全体の47.6%と、前回の49.1%よりも割合が減少した。反対に、中小企業や個人企業は増加し、全体の52.4%となり、前回に引き続き過半数を占めた。

出典:Japan External Trade Organization(JETRO)
改善傾向にあるタイの日系企業の業績
日本貿易振興機構(JETRO)は海外進出日系企業実態調査にて、タイの日系企業527社に対し2022年の営業利益見込みをヒアリングした。黒字見込みと回答したのは全体の63.8%の企業で、18.6%が均衡、17.7%が赤字見込みであった。前年よりも赤字は4.1ポイント減少、黒字見込みが1.2ポイント増加し、日系企業の業績は回復してきている。
回復の理由としては、前年の新型コロナウイルスに起因する反動増や、各国での行動制限緩和によるものが多く見られる。実際に、黒字企業の割合は、新型コロナウイルス流行前の水準まで戻ってきている。一方で、原材料や部品調達コストの上昇、物流コストの上昇といった悪化要因も存在し、予断を許さない状況となっている。

出典:Japan External Trade Organization(JETRO)
タイの人材サービス事情〜統計データ〜
タイの労働力人口の推移
タイ国家統計局(National Statistical Office)のデータによると、2021年におけるタイの15歳以上の人口は計5,709万人であった。また、労働力人口は3,870万人で、非労働力は1,839万人であった。各数値とも2017年からほぼ横ばいであり、少子高齢化とともに人口の伸びが停滞してきていることが原因と考えられる。2021年の労働力人口のうち、失業者数は75万人と、前年の65万人からさらに増加傾向を示した。
2017年から2019年の失業者数は30万人から40万人程度であったため、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が見て取れる。非労働力の内訳としては主婦(夫)、学生、年齢が低すぎたり高すぎる人など、何らかの事情で働けない人々が含まれている。

出典:National Statistical Office
タイの外国人労働者数の推移
タイ国家統計局(National Statistical Office)のデータによると、2021年にタイでの労働許可を持つ外国人労働者は235.1万人であった。これは前年よりも6.4%の減少であり、2019年をピークに減少を続けている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響は大きく、渡航制限を受けた新規労働者や、経済の停滞および企業の業績低迷で帰国を余儀なくされた労働者が一定数存在すると考えられる。
他方、本統計データは正規に労働許可を取得して就労する外国人労働者の人数となっているが、ミャンマーやカンボジア、ラオスといった近隣諸国からの非熟練労働者を中心に、不法就労状態にある外国人労働者も一定数存在すると言われてる。タイ政府は不法就労者をゼロにするべく、対策を行おうとしている。

出典:National Statistical Office