アメリカ文房具製造の市場規模は2023年現在で60億米ドル、企業社数は382社と言われています。パンデミックの影響で2018-2023年の売上は平均2.9%減少、2023年前半だけで3.3%減少しています。大手企業は、同業者の吸収合併を進めている状況です。
今回は、アメリカの主要文房具・事務用品メーカーに焦点を当て、ローカル・日系・外資合わせて14社を厳選してお届けします!それぞれの企業情報や事業内容について、一つ一つ詳しくご紹介します。
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アメリカの主要文房具・事務用品メーカー8選〜ローカル編〜
Westcott Rule(ウェストコット・ルール)
1872年にニューヨーク州セネカフォールズ市で木製家具会社として創業。その後、世界最大の机および学校用の定規のメーカーに成長する。1970年代に同業社のAcme Unitedに買収されたが、北米におけるブランド力はWestcottの方が強力であったため、Westcottの名を使い続けている。
親会社のAcme United社はカナダ・欧州・アジアに展開中。アメリカ国内ではStaplesのような大手小売業者を主な顧客としている。世界中で年間6000万から8000万のWestcott社製のハサミ、1500万から1800万のWestcott社製の定規を販売している。
2016年発表の子供用ハサミは、世界で初めて人間工学を取り入れたものであった。またチタンコートされたブレードを使ったハサミなども開発した。鉛筆削りはグッドデザイン賞も受賞している。
出典:https://www.westcottbrand.com/
Newell Custom Writing Instruments(ニューウェル・カスタム・文房具)
1857年に創業。インクと糊を販売していたSanford Manufacturing Company社がはじまり。1992年に、家庭・商用の様々な商品を製造・販売するNewell Brands社に買収された。
現在の文房具製品は、主にジョージア州アトランタ市で製造している。主力商品ブランドは油性ペンのSharpie、ボールペンのPaper Mate、ホワイトボードマーカーのExpo、高級万年筆のParkerとWatermanがある。海外への展開はイギリス、オーストラリア、カナダ、コロンビア、ドイツ、メキシコ、フランスなどに拠点を持つ。
多くの関係同業社を買収しており、ドイツの製図機器会社のRotring社も傘下である。修正液のLiquid Paperや携帯ラベル機のDymoなどのブランドも同社の傘下である。
出典:https://newellcustomwritinginstruments.com/
Crayola (クレヨーラ)
2007年まではBinney & Smith Companyという社名だった。クレヨンで有名な同社は、アメリカ世帯の99%が認知しているとされる。世界80か国以上で販売される同社の全ての製品は、子供が使用することを前提としているため、無毒で安全な原料でのみで製造されている。
設立当初は工業用着色剤を開発・販売していたが、1903年に子供にも安全なクレヨンを開発。その「Crayola」と名付けられた商品が爆発的なヒット商品となる。
Crayolaブランドの商品は、色鉛筆・マーカー・インク・絵具・粘土・塗り絵などがある。これらも子供が使って安全なものとして販売されている。製造は主にペンシルベニア州内の製造工場。その他、カナダのオンタリオ州やメキシコにも工場を持つ。色鉛筆はブラジルにある専用工場で作られている。
出典:https://www.crayola.com/
Elmer‘s Products (エルマー)
アイスクリームの「レディー・ボーデン」で有名なボーデン社が1929年に牛乳の副産物であるカゼインから作られる接着剤の大手メーカーを買収。1947年にカセコレズ接着剤として知られる最初の「エルマー」と名付けられた製品を発表。さらに5年後には木工用樹脂接着剤を発表する。1962年には現在でも使用されているボトルを発表。
1994年にボーデン社が買収されるときにスピンアウト。これを機に、学校や家庭で使用する接着剤開発・販売に傾注する。同社のブランドには瞬間接着剤で有名なKrazy Glueや切削工具で有名なX-Actoなどがある。なお、現在の接着剤にはカゼインなどの動物由来の成分は一切含まれていない。
1968年には洗濯で綺麗に落とせる接着剤を開発。ここから学校での使用率が格段に伸びた。1983年に、手が汚れないリップスティックタイプ糊を開発。これも学校教師からの意見を参考に開発された。
出典:https://www.elmers.com/
3M (スリーエム)
元々はMinnesota Mining and Manufacturing Companyという。多国籍複合企業。1902年にミネソタ州ツーハーバーズ市で採掘事業社として設立した。同社は2019年時点で約60000種類の製品を生産している。1924年に最初の特許を取得してから、毎年約3000件の新特許を取得している。2014年には取得特許数100000件を超えたという。
2021年の総売上高は354億米ドルといわれ、約95000人もの従業員を抱える。世界の70か国以上で展開中。例えば3M Japanなど、いくつかの海外子会社がある。
文房具・事務用品としてはセロファンテープ(スコッチテープ)が主力商品。ガムテープも学校・オフィスで良く使われる。他にもラミネート用品やPCモニターのフィルター、壁掛け用のフックなどが有名。
出典:https://www.3m.com/
Dixon Ticonderoga(ディクソン・タイコンデロガ)
1795年にニュージャージー州にて設立。現在はフロリダ州ヒースロー市に本社を置く。オフィス製品と画材を専門とするメーカー。アメリカ人にとっては黄色のNo2鉛筆が有名。(No2は日本でいうHBの意味)
タイコンデロガはニューヨーク州の地名。鉛筆の原料である黒鉛鉱石の産地である。同社の2022年の収益は7億ドルを超す。従業員は1400人以上。2005年にイタリアの学用品・画材メーカーのFILA社に買収された。主力商品の鉛筆はイタリア・フランス・ドイツ・アジア・南アメリカでも製造販売されている。
鉛筆と言えば黄色という文化を作り出したのが同社。また消しゴムも鉛筆の先についているものとしたのも同社。さらに日本人にとっては消えない消しゴムも、同社のピンクのものがアメリカ人スタンダード。
出典: https://dixonticonderogacompany.com/
Mead (ミード)
1846年にオハイオ州デイトン市で創業。製紙業からの始まりであった。1960年代後半に、学用品の生産ラインを強化した。その後も買収合併を繰り返す。製紙業はMeadWestvaco社として投資会社に売却されたが、学用品のMead部門は同業の大手ACCO社に買収された。
2012年のACCO社の買収によりブランド力が安定。商品開発も安定化した。2021年のACCO社の収益は20億米ドルを超す。従業員数は6000人以上である。欧州やアジアを含め、世界中に拠点を持つ。
主力商品はノート・フォルダ・バインダー・プランナー・カレンダーなど。学校やオフィスで必要なものをラインナップしている。特に黒いコンポジションノートは、アメリカ人にとってのジャポニカ学習帳ともいえる、定番のノートである。
出典:https://www.mead.com/
Avery Dennison (エイブリー・デニソン)
1935年創業。ラベル材料事業をアメリカ本土および欧州で事業を拡大。宝飾品や時計などの箱を製造するデニソン社と1982年に合併。バインダーやファイルラベル、名札などの学校・オフィス製品を扱う部門はAveryブランドのみで販売。
郵送用のラベル市場弱体化とともに競争力が低下。2013年にはCCLインダストリーズへ売却された。現在はラベル素材だけではなく、感圧材料セグメント、医療用テープやセンサーなども手掛ける。世界50か国以上に事業展開され、25000人の従業員を抱える。2022年の収益は90億米ドルだった。
小中学校への訪問者が胸につける名札には同社製品のシールが良く使われている。また自宅のプリンターで簡単に出力できる名刺のセット・住所シールなども、現在もなお学校やオフィスでの必需品といえる。
出典:https://www.averydennison.com/en/home.html
アメリカの主要文房具・事務用品メーカー3選〜日系編〜
Pilot Corporation (株式会社パイロットコーポレーション)
1915年に東京で創業の筆記具メーカー。1926年にはボストンに海外事務所を設立している。1972年から1999年にかけて世界各地に子会社が設立され、これらの総称をパイロットコーポレーションとしている。
北米本社は現在フロリダ州ジャクソンビル市にある。2022年の従業員数は約200名であるにもかかわらず、2022年の収益は約1億6000万米ドルである。消せるボールペンを世界で初めて販売したのが同社。
滑らかな書き心地で高い評価を得ているジェルペンのG2シリーズやかつて日本でも一大ブームとなったドクターグリップシリーズなど、学校やオフィスで使用される筆記用具が主力商品。高級万年筆もあるが、一般的な小売店ではみかけない。他にはホワイトボード用マーカーやシャーペンなども販売されている。
出典:https://pilotpen.us/
Tombow Pencil Co.,Ltd. (株式会社トンボ鉛筆)
1913年に東京で創業。鉛筆販売の元祖。1939年には製造と販売の二社を法人化。同年、油脂を使った消しゴムを発売。1983年にカリフォルニア州ウエストレイクビレッジ市にアメリカ本社を設立。2003年には最先端技術を備えたジョージア州スワニー市の施設に移転。従業員45名。2022年の収益は2300万米ドルであった。
現在の主力商品は鉛筆のほか、マーカー・接着剤・粘着テープ・ボールペン・修正テープなど、オフィスや学校で使用される筆記具の多くを取り扱っている。また美術用筆記具や工芸品制作器具なども手掛ける。
日本国内で最も有名な同社の製品は、消しゴムの「MONOシリーズ」だが、アメリカでは鉛筆・消しゴムの使用頻度が低いので一般的ではない。アメリカでは修正テープが一番人気。
出典:https://www.tombowusa.com/
Zebra Co., Ltd. (ゼブラ株式会社)
1914年に東京で創業。同社は自家製ペン先の製造から始まった。大戦ですべてを失ったが1950年に再建。1959年には最初のボールペンを製造販売。アメリカへは1982年に進出。海外拠点はカナダ、インドネシア、中国、メキシコ、イギリスなどに持つ。
日本での有名商品は複合ペンの「シャーボ」や油性ペンの「マッキー」だが、いずれもアメリカで見かけることはほぼ無い。日本で流行した芯の折れないシャーペンの「デルガード」も、ほぼ見ることが無い。アメリカで同社の製品ではボールペンがヒットしており、日本でもヒット商品である「Zグリップ」「サラサ」の各シリーズはスーパーやコンビニでも見かける。
同社の現在のアメリカ本社はニュージャージー州エジソン市にある。従業員は950人で、収益は2290万米ドルであった。アメリカ筆記用具メーカーの中では小規模の企業とされている。
出典:https://www.zebrapen.com/
アメリカの主要文房具・事務用品メーカー3選〜外資系編〜
Société Bic S.A. (ビック)
1942年、フランスのパリ市郊外にてペンホルダーと筆箱の製造会社として設立。ハンガリーの発明家からボールペンの特許を買い取り、1950年に「ビック・クリスタル・ボールペン」を発売。瞬く間に世界中でヒットした。現在も基本デザインは変わらず、世界で最も売れているボールペンとして認識されている。
アメリカには1958年に進出。翌年には全米で発売開始。現在アメリカ本社はコネチカット州シェルトン市にある。従業員は約6000人。2022年のアメリカだけでの収益は約9億米ドルとされる。ボールペンなどの筆記用具の他、ライターやカミソリなどでも世界的に有名である。
同社の筆記用具・事務用品でヒットしているのはボールペンの他に修正液などがある。1992年に修正液ブランドのWite-Out Products社を買収したことが大きく影響したとされる。
出典:https://corporate.bic.com/en-us/
Waterman Pen Company (ウォーターマン)
現在はフランスのパリ市に本社があるので外資系とされるが、もとは1884年にニューヨーク市で設立された高級万年筆とインクの大手製造会社である。さらに、現存する一世代万年筆会社でもある。
パーカーやシェーファーなどの高級万年筆メーカーとの競り合いで苦戦を強いられ、1954年にアメリカ本社は閉鎖される。フランス子会社が繁栄をつづけたため、アメリカ本社とイギリス支社をフランス支社が吸収し、フランスの企業となった。2000年からニューウェル社の傘下に入っている。
現在アメリカ本部はコロラド州プエブロ市にある。同社の筆記用具は高級品が多く、替え芯なども取り揃えられている。スーパーなどで気軽に購入できるものではないが、古き良きアメリカ製の耐久性とフランスのエレガントさが融合した逸品となっている。
出典:https://www.waterman.com/
Staedtler Mars GmbH & Co. KG(ステッドラー)
ドイツのニュルンベルク市に本拠を置く多国籍文具製造販売会社である。創立は1835年と古く、製図機器を含む筆記用具や画材・事務用品など多種多様な文具製品を製造・販売している。アメリカには1922年に子会社を設立。世界中に9つの製造工場を建て、26の子会社を持ち、150か国で販売されている。従業員は2200人を超す。北米本社はアメリカ・カナダ・メキシコを統括するため、カナダのアメリカ寄りの都市であるミシサガ市におかれている。
1926年、大阪事務所を設立。1974年にはステッドラー日本株式会社として展開。同社の製品は日本でも、特に製図用の筆記用具に人気がある。アメリカでも定規・コンパス・鉛筆削りなどが人気商品。
同社のブランドに古代ローマの戦争の神である「マーズ」やモデリング粘土の「フィモ」などがある。
出典:https://www.staedtler.com/us/en/
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。