アメリカの自動車業界で三大メーカーといわれるのが「GM、フォード、クライスラー」の3社です。トヨタに「レクサス」があるように、アメリカの自動車メーカーも傘下に多数のブランドを持っています。現在、テスラ社などにより全体的にEVへのシフトが進んでおり、その要因として充電ステーションの整備と価格の安定が挙げられます。
今回は、アメリカの主要自動車メーカーに焦点を当て、ローカル・日系・外資合わせて16社を厳選してお届けします!それぞれの企業情報や事業内容について、一つ一つ詳しくご紹介します。
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アメリカの主要自動車メーカー8選〜ローカル編〜
Cadillac Motor Car Division(キャデラック自動車部門)
GM傘下。高級車の製造販売を担う。主要市場はアメリカの他に、カナダと中国。その他に世界34か国で販売中。1902年、フォード社が使用していたミシガン州デトロイト市の工場跡地にて創業。ビュイックやオールズモビルなどと並んで、アメリカ老舗自動車メーカーのひとつ。1909年にGMに買収されている。現在でもGM内の最上位高級車種として君臨しているメーカー。2019年には世界中で39万台を販売した。
車種別に工場があり、アメリカ国内ではミシガン州・テキサス州・カンザス州・テネシー州にある。中国市場向けに上海にも工場がある。現行の車種は高級セダンタイプを3種、SUVを6種販売している。
精密部品の互換性など、現在でも使われている生産技術をいち早く実践したメーカー。イギリス王立自動車クラブから表彰されたこともあり、「世界の標準」をスローガンとしていた。1970年ごろまでは高級車の代名詞となっていた。
出典:https://www.cadillac.com/
Karma Automotive LLC(カルマ・オートモーティブ)
1857年に創業。インクと糊を販売していたSanford Manufacturing Company社がはじまり。1992年に、家庭・商用の様々な商品を製造・販売するNewell Brands社に買収された。
現在の文房具製品は、主にジョージア州アトランタ市で製造している。主力商品ブランドは油性ペンのSharpie、ボールペンのPaper Mate、ホワイトボードマーカーのExpo、高級万年筆のParkerとWatermanがある。海外への展開はイギリス、オーストラリア、カナダ、コロンビア、ドイツ、メキシコ、フランスなどに拠点を持つ。
多くの関係同業社を買収しており、ドイツの製図機器会社のRotring社も傘下である。修正液のLiquid Paperや携帯ラベル機のDymoなどのブランドも同社の傘下である。
出典:https://www.karmaautomotive.com/
Jeep (ジープ)
創業は1943年、ウィリス・オーバーランド・モーターズ社にて作られたブランド。オハイオ州トレド市に本社があった。軍用車として開発されたことは有名。戦後、新しい乗用車の生産をせず、ジープブランドの維持に努めた。
1970年、経営難に陥っていたジープ社をアメリカン・モーターズ社が買収。1979年にはフランスの自動車メーカーのルノー社が投資を開始。すぐに欧州での販売を開始した。1987年にはオフロード車が欲しかったクライスラー社が同社を買収。さらに現在は多国籍企業のステランティス社が保有している。
武骨な軍用車しかラインナップされていなかった創業者時代から、現在はSUVのグランドチェロキーやEVシリーズもラインナップ。5つのモデルを販売している。全て四輪駆動車。アメリカ国外でライセンス生産されているモデルも多く存在する。(例:三菱ジープなど)
出典:https://www.jeep.com/
Freightliner Truck (フレイトライナー・トラックス)
創業は1929年、オレゴン州ポートランド市の運送会社のトラック製造部門からスタートした。現在の社名は1942年から使用。1981年にダイムラー社に買収されたので、ダイムラー・トラックス・ノース・アメリカ社の傘下にある。
アメリカでの商用車部門での売り上げとシェア率は常にトップである。ノースカロライナ州・メキシコのメヒコ州などに製造工場を持つ。グループ内19000人の従業員を抱える。
2012年には全車に統合型リモート診断システムを採用した。これによりエンジン故障を記録し、故障時の診断と推奨事項の伝達を簡単に行えるようになった。2019年に親会社のダイムラー社が、電気自動車へのシフトを発表。これにともない、同社においても電気トラックとしてクラス8のeCascadiaやクラス6-7のeM2などが販売されている。
出典:https://freightliner.com/
Hennessey Performance Engineering (ヘネシー・パフォーマンス・エンジニアリング)
いわゆるスーパーカーメーカーである。自社制作の高性能スポーツカーだけではなく、他社製品の改造も手掛けている。1991年にテキサス州シーリー市にて創業。
アメリカにはチューンナップメーカーが多く存在する。個人的な規模のものもあれば、ベンチャー企業で急成長したものもある。同社はダッジ社のスポーツカー「バイパー」をもとに世界最速の公道走行可能な車である「ヴェノム」をリリースしたことで、多くの車マニアに注目された、ベンチャー企業である。
生産台数が24台のみの超高性能スポーツカーであるがゆえに、その価格も160万米ドルと破格。同社はスポーツカーの他にSUVやオフロードトラックの改造(チューンナップ)も行っている。自社開発のエンジンもあり、改造専門ではなく、あくまでも自動車メーカーとして存在していると、同社社長のジョン・ヘネシーがオートショーで語っている。
出典:https://www.hennesseyperformance.com/
Ford Motor Company (フォード・モーター・カンパニー)
1903年ミシガン州デトロイト市にて創業。世界最大の家族経営企業のひとつ。1908年発表の「モデルT」はその後の20年間で数百万台の販売があった。1939年には低価格帯のブランド「マーキュリー」、1922年にはキャデラックなどに対抗するために高級ブランドの「リンカーン」をラインナップしている。
2020年の従業員は世界で186000人。2022年収益は1580億米ドルを超す。いわゆるアメリカ三大自動車メーカーのなかで、財政苦境に立たされても連邦政府の介入を受けなかった唯一の自動車メーカーである。
現在はフォードブランドで20種以上を販売。特にトラックのF-150、SUVのエクスプローラー、セダンのフォーカス、スポーツカーのマスタングなどが好評である。リンカーンブランドでは4車種が販売中。
出典: https://www.ford.com/
General Motors(ゼネラルモーターズ)
1908年ミシガン州フリント市にて持株会社として創業。現在も存在する自動車メーカーのビュイックの販売網整備から歴史が始まっている。オールズモビルやキャデラック、エルモア、ポンティアックなど、多くの自動車メーカーを買収して急成長。
その後、ベーシックブランドはシボレー、高級ブランドはキャデラックとするバリエーションの多さでモデルTしか販売していなかったフォード社と差別化した。1950年代から60年代にかけては世界最大の自動車メーカに成長するも、1970年代以降は迷走し、2009年には倒産して国有化された。2013年に国有化は解消されている。
現在販売しているブランドはキャデラック、ビュイック、シボレー、GMCの4ブランド。2021年現在、世界の400施設で157000人の従業員を雇い、収益1567億米ドルといわれる。生産台数は600万台だった。
出典:https://www.gm.com/
Chrysler Corporation (クライスラー・コーポレーション)
1925年創業の老舗自動車メーカー。三大自動車メーカーのひとつだったが、アメリカ金融危機をきっかけに2009年倒産。それでも約1か月強で再建された。2014年にフィアット・クライスラー・オートモービルズの子会社となり、さらに2021年にグループPSA社との合併により誕生したステランティス社の北米グループとして子会社化している。
現在販売しているブランドは高級車仕様に対応できるセダンとミニバンをラインナップする「クライスラー」、四輪駆動の代名詞にもなった「ジープ」、個性的なセダンやミニバンの「ダッジ」、ダッジから切り離されたピックアップトラックの「ラム」で構成されている。
2023年6月時点での新車販売台数では、GM、トヨタ、フォード、現代グループに次いで5位に落ち、約36万台だった。ジープブランドの不調が続いていることが原因といわれている。
出典:https://media.stellantisnorthamerica.com/homepage.do?mid=1
アメリカの主要自動車メーカー5選〜日系編〜
Toyota Motor North America(北米トヨタ)
オンラインリサーチ会社のYouGov社の調査によると、 2023年第二四半期、67%のアメリカ人がトヨタ車を好むという。この人気度はフォードなどのアメリカ車を抜き、第1位である。
北米トヨタは1957年にカリフォルニア州ハリウッド市にて創業。様々な自動車輸入規制法を創意工夫で乗り越え、ケンタッキー州に世界最大の製造工場を持つに至った。本社は現在テキサス州プラノ市。関連子会社は北米内に20施設以上あり、製造施設は13以上ある。工場での従業員数は計40000人を超す。
トヨタブランドの他、高級車のレクサスブランドを含めると、北米では30種に及ぶ。特にアメリカ国内で組み立てられたカムリやカローラは人気で、SUVのRAV4も長い間ベストセラーとなっている。ほとんどのモデルにハイブリッドが設定されている。完全EV車のbz4xや水素燃料電池車のミライも販売されている。
出典:https://www.toyota.com/usa/
American Honda Motor Company, Inc(アメリカ・ホンダ)
1959年、たった3名の従業員でカリフォルニア州ロサンゼルス市に設立。現在も本社はカリフォルニア州にある。日本国内同様、もとは二輪車メーカーのため、アメリカ進出も二輪車で歴史が始まっている。四輪車は1970年、西海岸の32店舗にてN600セダンを販売したのが最初。1973年発表のシビックは爆発的ヒットとなり、1990年のアコードは最も売れた乗用車になった。1986年には最高級ブランドとしてアキュラをリリース。31000人の従業員を抱え585億米ドルの収益がある。
1980年代に日系自動車メーカーでは初めてアメリカ国内に生産工場を作った。現在はオハイオ州をはじめ国内の6州に9つの工場を稼働させている。北米で販売されているのはセダン2種、スポーツカーを1種、SUVを4種、ミニバンを1種、トラックを1種である。アキュラブランドではセダン2種、SUV3種、スポーツカーを1種取り扱っている。
アメリカ人の認知度としてはトヨタ車に次ぐ2位であり、信頼度はアメリカ車のフォードやGMなどを抜いている。
出典:https://www.honda.com/
Subaru of America, Inc. (スバル・オブ・アメリカ)
実業家のマルコム・ブルックリンがスバルの名作であるスバル360をアメリカに導入するアイディアを提唱。1968年ペンシルバニア州バラシンウィド市に同社を設立した。西海岸にもカリフォルニア州に事務所を設立。現在はそれらを統合し、ニュージャージー州カムデン市に本社ビルを建てている。北米で販売されている車種は全て四輪駆動車のため、アウトドア派に向けた市場戦略がとられていた。
現在販売しているのはSUV4種、普通車2種、スポーツカー2種、ハイブリッドSUV車1種である。他社と比較すると、ハイブリッド車が少ない。EV車のリリースも発表されていない。古くから豪雪地帯でのスバル車の信頼度は高く、他社の四輪駆動車では走行不可能な状況でもスバル車なら大丈夫といわれる。
スバル車は「トラックやSUVほど大きくなく、荷物を運ぶ広さを持ち、派手過ぎず、どんな路面でも走破できる」という点が評価されている。
出典:https://www.subaru.com/index.html
Infiniti (インフィニティ)
トヨタ自動車のレクサス・本田自動車のアキュラと同様な、日産自動車の高級車部門が同社である。1989年に北米で販売開始。1985年のプラザ合意以降、アメリカに対しての輸出自主規制が売り上げ減少を招き、その解決策のひとつとして利益の大きい高級車を輸出する方法として、新たなブランドで販売するということであった。
かつては世界50か国以上にディーラーを展開していたが、欧州での販売は芳しくなく撤退。オセアニアや香港・韓国・ベトナムなど、中国を除くアジア地区での売り上げも伸び悩んだために撤退。現在の市場は北米・中国・中東となっている。
北米ではセダンを2種、SUVを4種販売している。2030年までに100%完全電気自動車に切り替えることを発表している。
出典:https://www.infinitiusa.com/
Mitsubishi Motors North America, Inc.(北米三菱自動車)
1981年設立。アメリカ輸入パートナーであったクライスラー社との関係悪化のために設立。日本からの輸出自主規制は、アメリカ国内で生産された車には適用されていなかった。このため、1985年からイリノイ州ノーマル市に建てた工場で生産をしていた。
1990年代は好調であったが、2000年代に入ると日本のリコール隠蔽事件や金融問題などのために迷走。2019年、本社をテネシー州フランクリン市に移転。2020年にはルノー・日産・三菱アライアンス計画の一環として北米からの完全撤退が噂されたが、2022年にマーク・チャヒンが社長兼CEOに就任している。
現在販売しているのはPHEVを含むアウトランダーSUVを3種、やはりSVのエクリプスと小型車ミラージュのみ。北米全体でみるとトヨタやホンダのシェアには到底追いついていない。認知度も日産やスバルと比較すると低い。ランサーや3000GT(日本名GTO)などをリリースしていた時代の勢いは、もはや見られない。
出典:https://www.mitsubishicars.com/
アメリカの主要自動車メーカー3選〜外資系編〜
Stellantis North America(北米ステランティス)
正式にはFCA US, LLCであり、会社内部ではクライスラーグループLLCとしている。ミシガン州オーバーンヒルズ市に本社がある。オランダのアムステルダム市に本部がある多国籍自動車会社ステランティスの米国子会社である。米国同社では、クライスラー・ダッジ・ジープ・ラムのブランドを扱う。また、チューンナップメーカーのSRT社と部品部門のMopar社もグループ傘下となっている。
2009年にクライスラーが倒産し、国有化された。2011年に国に対する債務返済を完了したが、納税者の負担は13億米ドルだったという。2014年、イタリアの自動車メーカーであるフィアット社が買収して、フィアット・クライスラー・オートモービルズ社を設立。のち、子会社から立場が等しい合弁会社となった。
2023年現在、売上高で韓国の現代自動車グループに負け、5位に転落している。好調だったジープブランドの不調と、大黒柱だったトラックのラムの伸びが期待通りにならなかったためといわれている。
出典:https://www.stellantis.com/en
Hyundai Motor America(ヒュンダイ・モーター・アメリカ)
韓国の自動車メーカー。韓国の自動車メーカーでアメリカに進出しているKIAやGenesisやIoniqなどは、現代自動車株式会社(一般名としてHyundai)の傘下である。ここではKIAなどを除き、Hyundai車のみについてまとめる。1986年北米で販売開始。1車種のみの販売であったが、日本車やアメリカ車と比較すると価格が安く爆発的に売れた。ところがすぐに低品質が露呈し、売れない車になった。1992年以降、信頼の回復を目指し、品質の向上と2年間の無料メンテナンスを実施。2007年には信頼回復達成といえる販売台数になった。
カリフォルニア州の本部の他、ミシガン州・アラバマ州などにも工場やデザインセンター、技術研究所、自動車試験場などを設立している
ハイブリッドやEVなどのリリースもあり、現在はSUV7車種・セダン3車種・ハイパフォーマンス車2種を販売している。2023年も売り上げは上がっており、GM・トヨタ・フォードに次ぐ4位の販売台数だった。
出典:https://www.hyundaiusa.com/us/en
Volkswagen Group of America(フォルクスワーゲン・グループ・オブ・アメリカ)
ドイツの自動車会社であるフォルクスワーゲン社の北米事業本部及び子会社。ブランドには「アウディ」「ベントレー」「ブガッティ」・「ランボルギーニ」がある。
アメリカ進出は1955年。ニュージャージー州イングルウッドクリフ市に事務所を設立。1965年までに同社ディーラーをアメリカ国内に900か所以上設立した。販売網拡大路線の中、1970年には販売台数56万台を超え、アメリカ自動車市場の7%を占めるほどに成長した。その後は低迷し、1992年までには87%以上減少。ゴルフとジェッタとニュービートルのヒットで息を吹き返し、2010年までには復活といわれるほどになった。現在の本社はヴァージニア州ハーンドン市近郊にある。アメリカ国内には物流センターや技術センターなど20か所の施設を持つ。
現在アメリカで販売されているのはフォルクスワーゲン10車種、アウディが32車種、ベントレー4車種、ランボルギーニ3車種、ブガッティが1車種である。
出典:https://www.volkswagengroupofamerica.com/en-us/
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。