アメリカの金融・法人業界では、利上げによるコスト増、インフレ対策、デジタル通貨の進展が注目されています。特にEV関連の投資や、サプライチェーンの強化、AI・DX導入が企業戦略の焦点です。また、企業はESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を強化しています。
この記事では、業界を中心に、統計データを用いてアメリカの金融法人サービス業界の最新情報をお届けしていきます!
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アメリカの銀行事情〜統計データ〜
銀⾏窓⼝担当(テラー)の雇⽤
様々な業種で無人店舗が増加している。オンラインだけですべての作業が完遂できるようになったものもある。このため、一般的な「窓口対応係」の10年後の雇用状況は、現在よりも全体平均マイナス3%ではないかと予測されている。
それを金融関係だけでみてみると、マイナス7%まで膨らむ。銀行支店の拡大が失速し、技術革新により窓口の必要性が薄れてきたためと予測されている。もとより現金の必要性が薄れてきた現在、もはやATMでさえ不要になりつつある。
このため人によって対応する業務が激減し、この10年間で窓口業務人口は平均マイナス15%まで落ち込むと予測されている。機械に仕事を任せていった結果、人は人でしかできない複雑な顧客サービスのみを担当するようになる。現在は毎年平均29000人の窓口求人が見込まれているが、その数はさらに激減していくと予想されている。
出典: アメリカ労働統計局(US Bureau of Labor Statisics)
過去の銀行数データ
1980年代までは新しい銀行が誕生し、その数に対して支店数もネズミ算的に増加していた。転機が訪れたのは2010年代で、新規誕生した銀行数はそれまでの十分の一程度にまで落ち込んだ。
世界的な金融危機だけが原因とは考えられないが、アメリカの長く続く不景気・国内のインフレの始まりと重なる。ここ10年ほどは、極端な動きは感じられないが、明らかに銀行本店数は減っており、また新規銀行業務許可数も減っている。買収・吸収・合併などによるメガバンクが誕生したとしても、新たな銀行はさほど誕生していない。
銀行本体が誕生していなくても、支店数を増やすことで勢力拡大になるはずだが、技術革新のためオンラインでほとんどのことが完結できてしまうため、支店の存在意義が極端に薄れてきている。支店数の下降線は、今後さらに加速すると予測されている。
出典: 連邦預金保険公社(FDIC)
アメリカの証券事情〜統計データ〜
証券・金融サービス代理店の労働統計
証券・金融サービス代理店業界の統計として2022年5月の全体統計は、雇用人数443,220人。平均時給は48.43ドル。平均年間賃金は100,740ドルとなっている。続いて、雇用レベルの高い業界は、信用仲介で、雇用人数は226,130人。平均時給36.37ドル。年間平均賃金は75,650ドルである。続いてが有価証券、その他の金融投資および関連活動で、雇用人数は157,030人。平均時給は65.94ドル。年間平均賃金は137,160ドルである。
続いて、雇用レベルが最も高い州は、ニューヨーク州で、雇用人数58,140人。平均時給は84.80ドル。年間平均賃金は176,380ドルとなっている。続いて2番目はカリフォルニア州で、雇用人数は55,440人。平均時給は49.22ドル。年間平均賃金は102,380ドルである。3番目はフロリダ州で、雇用人数は37,860人。平均時給は38.88ドル。年間平均賃金は80,870ドルである。4番目はテキサス州で雇用人数は35,450人。平均時給は44.73ドル。年間平均賃金は93,040ドルである。5番目はイリノイ州で、雇用人数は25,030人。平均時給は45.50ドル。年間平均賃金は94,630ドルである。
また、年間平均賃金が高い州順は、1番目がニューヨーク州176,380ドル。2番目がサウスダコタ州134,460ドル。3番目がコロンビア特別区(ワシントンD.C.)124,040ドル。4番目がコネチカット州112,000ドル。5番目がハワイ州112,000ドルである
出典: 米国労働統計局
デジタル資産が増加
機関投資家デジタル資産調査にて、機関投資家の58%近くが、2022年上半期にデジタル資産に投資していた。前年比ポイントアップ。デジタル資産分野全体への関心が継続していることを示している。アジア(69%)の回答者のデジタル資産所有率は欧州(67%)や米国(42%)よりも高く、欧州では所有権が11ポイント増加し、米国では所有権が9ポイント増加した。
世界的にデジタル資産の利用率が最も高いのは富裕層投資家(82%)、これに次いで仮想通貨ヘッジファンドやベンチャーキャピタルファンド(87%)、ファイナンシャルアドバイザー(73%)が続いている。また、機関投資家の半数以上(51%)がデジタル資産に対して肯定的な認識を持っており、2021年の45%から増加している。
そして、調査対象となった機関の74%が将来デジタル資産を購入する予定であることが分かり、将来の購入意向は2021年と比較して欧州と米国で増加し、それぞれ5ポイント、7ポイント増加した。
出典 : Fidelity 2022年の機関投資家のデジタル資産調査
アメリカの保険事情〜統計データ〜
米国民健康保険加入者の増加
2022年には、2021年よりも多くの人が保険に加入した。国民の92.1%、3億400万人が2022年のどこかの時点で健康保険に加入していたデータである。これは、2021年の(91.7%、3億090万人)に比べて、被保険者率と被保険者数が増加したことを示している。
2022年にも、民間医療保険の加入率は引き続き公的保険よりも普及しており、それぞれ65.6%と36.1%だった。ただし、複数の補償タイプに加入している人もいる。より一般的な健康保険の種類のうち、雇用ベースの保険が最も普及しており、人口の54.5%をカバーし、続いてメディケイドが18.8%、メディケアが18.7%となっている。2021年から2022年にかけて、メディケアの加入率は0.3%増加した。
この増加の一部は、65歳以上の人口の増加によるものである。19歳から64歳までの労働年齢成人の無保険率は、2021年から2022年の間に0.8%ポイント減少して10.8%となった。これは、労働者の無保険率の低下が一因である。
出典:米国国勢調査
保険販売員の雇用統計
生命保険、財産保険、傷害保険、健康保険、自動車保険、またはその他の種類の保険を販売する者は、全米で2022年5月の時点で445,540人おり、平均時給は37ドルである。平均年間賃金は76,950ドルとなっている。続いて、保険販売員の雇用レベルが最も高い州の1番目はカリフォルニア州。
雇用人数44,190人、平均時給44.55ドル、年間平均賃金92,670ドルである。2番目はテキサス州。雇用人数41,230人、平均時給27.18ドル、年間平均賃金56,530ドルである。3番目はフロリダ州。雇用人数39,430人、平均時給33.53ドル、年間平均賃金69,750ドルである。4番目はニューヨーク州。雇用人数20,800人、平均時給50.41ドル、年間平均賃金104,850ドルである。5番目はペンシルベニア州。雇用人数16,900人、平均時給33.12ドル、年間平均賃金68,890ドルである。
出典:米国労働統計局
アメリカの法律事務所〜統計データ〜
弁護士の雇用数が高い大都市圏
訴訟大国アメリカらしく、大都市圏での法律事務所利用率は順当なものにみえる。ただし、法律事務所数でいえば、CA州が最も法律事務所数が多い州であるにもかかわらず、グレーターニューヨークでの弁護士雇用数が2位以下を2倍近く引き離している点が興味深い。
やはり様々な分野で世界の最先端を行くニューヨークらしさ、ということなのであろうか。年間平均賃金は、土地柄が反映したようである。政治家が多い地域であるグレーターワシントンDCでの賃金は、他の地域より多い。このデータには反映されていないが、1000件あたりの弁護士雇用数を見ると、他地域の2倍の雇用がある。
つまり、グレーターワシントンDCの法律事務所は、案件にたいして他地域の2倍の弁護士を担当させている。勝訴が絶対条件の土地柄ゆえ、ということなのだろうか。似た状況が、裕福層が多いマイアミ(フロリダ州)にも見られる。
出典: アメリカ労働統計局(US Bureau of Labor Statisics)
民事の地方・連邦裁判所管理の統計
隣の家の水まきが迷惑行為だからと、裁判所に訴えることがある。対応するのは市町村区にあるスモールクレームコートで、訴えを出したと同時に判決をもらえる。そのような訴訟大国であるアメリカでも、連保裁判所まで拡大すると人身傷害や製造者責任法による訴訟が圧倒的に大きい。
これには車大国であるアメリカの、自動車事故による傷害事件とPL法などに基づく案件が圧倒的に多い。データにはないが、刑事事件であれば最も多い案件は移民法によるもので、ついで薬物関係、銃犯罪と続く。やはり、こうした案件をみてもステレオタイプでいわれているアメリカの姿は事実に基づくものではないかと思わざるを得ない。
法律事務所の数が日本の数倍といわれるのは、これらの案件数を考えれば当然の結果ともいえる。守秘義務がある弁護活動であるため、法律事務所の活躍が本当はどうであったかは定かではないか、その数は想像以上のものであることは間違いない。
出典 : アメリカ連邦裁判所
アメリカの会計事務所事情〜統計データ〜
米国会計事務所の売り上げ順位
米国公認会計のデータによると、2023年米国での会計事務所別の純利益のランキングは以下の通りである。1位デトロイト。本社はニューヨーク。総収益は279億3600万ドル。2位Pwc。本社はニューヨーク。総収益は213億3600万ドル。3位アーンスト&ヤングLLP。本社はニューヨーク。総収益210億7100万ドル。4位KPMG LLP。本社はニューヨーク。総収益137億1000万ドル。5位RSM US LLP。
本社はシカゴ。総収益37億912万ドル。6位はBDO USA LLP。本社はシカゴ。総収益28億2260万ドル。このように見てみると上位4社はニューヨークに本社を置き、総収益は他社を飛び出いていることが見える。また、トップ10社のうち本社がニューヨークとシカゴに集中している。
出典:米国公認会計
会計士の雇用統計
米国労働局のデータによると、2022年5月時点で会計士および監査人の雇用人数は全米で1,402,420人となっている。平均時給は41.70ドル。平均年間賃金は86,740ドルである。会計士と監査人の雇用レベルが最も高い州として、
1番はカリフォルニア州。雇用人数157,080人。平均時給46.25ドル。平均年間賃金96,210ドル。2番目はニューヨーク州。雇用人数118,870人。平均時給53.04ドル。平均年間賃金110,320ドル。3番目はテキサス州。雇用人数106,630人。平均時給41.97ドル。平均年間賃金87,300ドル。4番目はフロリダ州。雇用人数92,760人。平均時給38.56ドル。平均年間賃金80,200ドル。5番目はペンシルベニア州。雇用人数55,210人。平均時給37.87ドル。平均年間賃金78,780ドルとなっている。
出典:米国労働統計局
アメリカの人材サービス事情〜統計データ〜
人材派遣業界の統計
派遣社員は、ほぼすべての業界で活躍している。コロナ禍以前は年間約1600万人の派遣社員が働いていた。現在は年平均1450万人の派遣社員・臨時職員が雇用されているという。派遣社員の73%はフルタイム勤務であり、また派遣社員の64%は次の仕事が見つかるまでの「つなぎ」として働いているとされる。
派遣社員のうちの20%は「スケジュールの柔軟性」を主目的として派遣制度を利用している。一方、人材派遣会社はコロナ改善は全米に約25000社・約49000のオフィスを運営していた。全業界の56%・オフィス総数の75%は何らかの形で派遣社員を雇用していた。その後、コロナ禍の2020年は雇用数が激減したが、翌年にはコロナ禍以前の数値に戻り、現在も順調に成長している。
雇う方も雇われる方も、派遣制度については日本と違って後ろめたさは全くない。生涯平均11回の転職をするアメリカ人の、様々な仕事に挑戦するときの、ひとつの就業形態になっているとも考えられる。
出典:American Staffing Association(米国人材派遣協会)
派遣社員の雇用状況及び賃金推計
平均で年間33330米ドルとされている。同様に、製造業でも人手不足が問題になっているが、輸送業と同じく年間賃金は34270米ドルと決して高くない。事務職(秘書なども含む)も、輸送や製造業と似たような数値となり、39930米ドルが平均賃金となっている。
これに対して、金融関係となると派遣社員であっても相応の知識・経験・資格などが必要となってくるため、年間平均賃金は75450米ドルと雇用者数上位3つと比較して高い賃金収入となっている。またIT関連の派遣社員も同様に、スキルが必要とされるため、年間平均賃金はリスト中のトップである98260米ドルと破格である。
医療関係では、派遣社員ができることはあくまで医師免許などが不要な補助職のみであるが、コロナ以降、賃金は急騰した。現在はIT関係に次ぐ高給取りとなっている。
出典:U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS(米国労働統計局)
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。