2022年、アメリカの電力生産の約40%を天然ガスが占め、再生可能エネルギーは21.7%、石炭19.4%、原子力18.4%でした。再生可能エネルギー支援法案も可決され、風力・太陽光発電の拡大や新技術の開発が進行中です。化石燃料とゼロカーボン電力の比率は約60:40であり、化石燃料は総発電量の60%、再生可能エネルギーと原子力は約40%を占めています。
今回は、アメリカの主要電力・ガス会社に焦点を当て、ローカル・日系・外資合わせて14社を厳選してお届けします!それぞれの企業情報や事業内容について、一つ一つ詳しくご紹介します。
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アメリカの主要電力・ガス会社8選〜ローカル編〜
EQT (イーキューティー)
1888年創業。アメリカのエネルギー会社の中では老舗中の老舗。本社はペンシルバニア州ピッツバーグ市。アメリカ東海岸アパラチア盆地における最大の天然ガス生産会社である。2020年の収益は30億米ドル以上。従業員は693名。現在はペンシルバニア州だけでなく、ウエストバージニア州やオハイオ州を含むいくつかの州で天然ガス関連の事業を展開している。
EQTは「Equitable=公平性」の頭文字。創業当時、エネルギー関連の価格は不透明であったことから。同社の大きな出来事のひとつとして、1995年、アメリカではじめて顧客に対しての「固定料金」を始めたことにある。エネルギーコストは一般的に生産量が落ちると価格上昇するものではあるが、同社のシステムで価格固定を実現させた。
同社は天然ガス資源発掘だけではなく、パイプライン・貯蔵・処理などの関連業務を総括的に展開している。また、天然ガス以外にも石油なども限られた量ではあるが、事業展開している。
出典:https://www.eqt.com/
Southwestern Energy Company(サザンウエスタン・エナジー)
1929年、テキサス州ダラス市にあったサザン・ユニオン・ガス会社の子会社「アーカンソー・ウエスタン・ガス会社」として創業。現在は登記上は税金対策も含めてデラウエア州にしているが、実際の本社はテキサス州スプリング市においている。
アメリカの天然ガスの73%はペンシルバニア州とウエストバージニア州にまたがるアパラチア盆地、残りの27%がアーカンソー州南西部・ルイジアナ州北西部・テキサス州東部のヘインズビルシェールにある。同社の主な探査及び生産活動は、この2拠点で行われている。
2022年の収益は66億米ドル。従業員数は938名だった。他の天然ガス会社企業とは異なり、自社において天然ガス・液体天然ガス・原油の開発に焦点を当て、また製品の販売と輸送も行っている。同社は天然ガス資源発掘だけではなく、カナダのニューブランズウィック州の未開発ガス田を管理しているが、フラッキングの無期限停止対象となっており、開発中止となっている。
出典:https://www.swn.com/
Antero Resources (アンテロ・リソース)
2002年創業の、アメリカでは比較的新しい炭化水素探査に従事する会社である。扱う製品は天然ガス、エタン、液体天然ガスと石油である。本社はコロラド州デンバー市におかれ、登記は節税対策としてデラウエア州に登記されている。
2021年12月末日の時点で、同社の管理する推定埋蔵量は5020億立方メートルとされ、そのうちの61%が天然ガス、21%がメタン、17%が液体天然ガス、そして1%が石油とされている。アメリカ国内で一日あたりの天然ガス生産量が多い会社のひとつとして地位を獲得している。
環境に対しての配慮が他社と比較して非常に高くなっており、一般的には科学的な液体を使ったフラッキングが多いのに対して、同社は発生した廃水の86%をリサイクルしたり、メタン濃度が極端に少なかったり、発生したガスに引火した事故はゼロと、型破りとまで比喩される生産方法を実施している。同社は投資・買収・売却などを繰り返し成長中。フォーチュン500では672位にランクされている。
出典:https://www.anteroresources.com/
Exxon Mobil (エクソン・モービル)
最も古い記録では、創業1882年とある。ニューヨーク州ロチェスターしで創業されたバキューム・オイル社が元祖。その後、ニュージャージー州にあった、1960年代までは隆盛を博したスタンダードオイル社に買収された。さらに1973年にエクソン社に買収されている。
1999年、世界的企業であったエクソン社とモービル社の合併は、世界中から注目された。合併後はプラスチックや合成ゴムなどを生産する化学部門もあり、いわゆる垂直統合されている巨大企業となったため、現在のエクソンモービルは、石油・ガス関係の多国籍企業である。
現在は、テキサス州スプリング市に本社を置いているが、正式には創業間もなく買収されたスタンダードオイル社があったニュージャージー州にて法人化されている。巨大企業であることは、2020年の収益を見れば桁違いであることでわかる。グループ全体の収益は2856億米ドル以上である。また従業員も63000人以上とされる。同社ではパイプライン・貯蔵・処理施設・液化天然ガス輸出基地なども運営している。また、未来のエネルギー技術の開発に力を入れている。天然ガスの利点をさらに高めるために、メタン排出を効率的に管理できないか様々な実験が重ねられている。
出典:https://corporate.exxonmobil.com/
Exelon (エクセロン)
本社はイリノイ州シカゴ市。設立はペンシルバニア州。売上高で、アメリカ最大の規制電力親会社である。子会社として、ニュージャージー州のアトランティックシティーエレクトリック社、メリーランド州のボルチモアガス&エレクトリック社、イリノイ州のコモンウェルスエジソン社、デラウエア州のデルマーバパワー社、ペンシルバニア州のペコエナジーカンパニー社、ワシントンDCのペプコ社を統括している。
グループ全体の2022年収益は190億米ドルを超え、従業員は19000人を超えている、巨大電力・天然ガス配給会社。フォーチュン500でも99位にランクされている。顧客数は1000万人以上と言われ、顧客満足度で常に上位にランクされているという。
同社は気候変動投資イニシアチブや慈善事業寄付などを通じ、クリーンで尚且つ手ごろなエネルギー開発・推進にも取り組んでいる。2000年に、1902年創業のペコ社と1907年創業のコモンウェルスエジソン社の合併で設立。様々な買収を繰り返し、2012年には34ギガワットを超える発電量(原子力55%、天然ガス24%、水力を含む再生可能エネルギー8%、石油7%、石炭6%)を所有していた。
出典:http://www.exeloncorp.com/
Duke Energy (デューク・エナジー)
私立の名門大学であるデューク大学の名前は、同社の設立者が大学に多額の寄付をしたことにちなむ。同社の創業は水力発電所の建設に資金提供したことから。現在の紙たばこの製造方法や路面電車(現在はバスに変わった)などの活用で富を築き、成長。ノースカロライナ州シャーロット市に拠点を置く。
創業は1904年。南北カロライナ州のみならず、サービスはオハイオ州・ケンタッキー州・インディアナ州・フロリダ州などに及ぶ。グループ全体の2022年収益は247億米ドルを超え、従業員は27600人を超えている、アメリカ国内最大のエネルギー会社のひとつに数えられている。
現在同社は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを目指している。さらに、水素などの先進的なゼロエミッション発電技術の探求に継続的に投資をしている。2022年12月に大規模な嵐があり、クリスマスイブの前例のないエネルギー需要を受けて、同社史上初めて計画停電を実施した。停電は何時間も続き、連邦エネルギー規制委員会が調査を開始した。
出典:http://www.duke-energy.com/
Southern Company (サザン・カンパニー)
1945年デラウエア州で設立。1949年に操業開始。1950年にジョージア州に移転。現在本社はジョージア州アトランタ市にあり、執行オフィスはアラバマ州バーミンガム市においている。
同社は2021年現在、アメリカ国内顧客ベースで2番目に大きい公益事業会社である。子会社を通じて、6つの州(アラバマ州・ジョージア州・イリノイ州・ミシシッピ州・テネシー州・バージニア州)でガスと電気のサービスをしている。2022年の収益は231億米ドル、従業員数はグループ全体で27000人を超えている。
特筆できる点は、全米各地にある子会社で再生可能エネルギー(太陽光・風力・バイオマスなど)施設を運営・開発していることにある。また、ジョージア州オーガスタ市近郊に、アメリカでは実に30年ぶりとなる、新しい原子力発電施設を稼働させている。同社は連邦エネルギー省と協力して、送配電・スマートグリッド・環境研究・原子力発電など、様々なプロジェクトに取り組んでいる。
出典: http://southerncompany.com/
Pacific Gas & Electric(パシフィック・ガス&エレクトリック)
歴史的には1850年代にカリフォルニア州サンフランシスコ市に設立されたガス供給会社にさかのぼるとされるが、同社名に限定すると創業は1905年とされる。それまでに様々な合併などを繰り返し成長。1930年には天然ガスの配送を開始している。テキサス州のガス田からカリフォルニア州まで続くという、当時は世界最長のパイプラインであったという。
現在はカリフォルニア州オークランド市に本社を構え、カリフォルニア州全体の70%の世帯(約520万世帯)に天然ガスと電気を供給している。同社はカリフォルニア州公共事業委員会の監視下に置かれている。1984年まではアメリカ最大の電力会社といわれていたが、2018年と2019年に起きた山火事の主な責任を問われ、2019年に破産法第11章の申請を発表した。2020年6月下旬には、破産から脱却している。
同社の2022年の収益は216億米ドルを超す。従業員は26000人以上。174のダムを含む水力発電施設の最大の所有企業でもある。
出典:https://www.pgecorp.com/
アメリカの主要電力・ガス業界3選〜日系編〜
Mitsubishi Power Americas(三菱パワーアメリカ)
フロリダ州レイクメリー市に本社を置く。同社は発電・エネルギー貯蔵・プロジェクト開発・デジタルソリューションを中心に展開中。東京に本社を置く、三菱重工業株式会社のパワーソリューションブランドと定義されている。三菱パワーアメリカ社の従業員は北米・中米・南米にあわせて2300人を超えている。
同社の発電ソリューションには、水素・天然ガス・蒸気・航空転用タービンを含む。さらに、パワートレインとパワーアイランドの研究や地熱システムの利用法開発、太陽光発電や環境管理など、環境保護と炭素削減に対しても取り組み、グリーン水素とバッテリーエネルギー貯蔵システムの最前線にも立っている。
また、AIを利用してリアルタイムデータと適応制御を提供し、パフォーマンスと信頼性を最適化して、発電所の自立運転を実現している。さらに同社の世界で最も効率の高いガスタービンを製造している。グループ会社を4社、その他北米に30の事務所を抱えている。
出典:https://power.mhi.com/regions/amer/company
Osaka Gas USA (大阪ガスUSA)
1897年大阪で操業開始をした、関西大手のガス会社。フロリダ州レイクメリー市に本社を置く。2018年、それまで子会社として世界各地で独自に発展してきた海外ブランドをDaigasグループとして統括。アメリカ子会社は2004年にニューヨーク、ヒューストン、カリフォルニアに事務所を置いた。
同社のアメリカでの事業展開は、エネルギーインフラを開発・所有・運営することである。今後の事業計画として、「シェールガス開発事業への取り組み」「再生可能エネルギへの転換に適応できるソリューション開発」などを掲げている。
2023年5月、欧州を中心に再生可能エネルギーを開発するデンマークのヨーロピアン・エナジー社の米国子会社ヨーロピアン・エナジー・ノース・アメリカ社と太陽光発電所の全持ち分を取得する契約を締結。同発電所を開発する権利を完全に取得したと発表している。
出典:https://www.osakagasusa.com/who-we-are/
JERA (株式会社JERA)
福島第一原発事故で信用が急落した東京電力が、戦略的提携パートナーを探していたところ、関東への進出に熱心であった中部電力が名乗りを上げた。その後、二社が折半出資で2015年に同社を設立。日本国内では、合計出力では日本最大の発電会社となった。発電した電力は小売電気事業者に卸される。消費者に直接供給はされていない。
アメリカ進出は、ガス火力発電に関するノウハウをアメリカで使えないかという視点から。現在は電力市場改革先進国であるアメリカからの知識吸収を視野に入れた運営になっている。
同社は2015年からオハイオ州にある独立系卸発電事業社のキャロルカウンディエナジー社に出資している。さらに2017年からはアメリカ最大の卸電力市場であるPJMを通して供給を行っている。さらに、ネブラスカ州にあるガス発電独立系卸発電業者のテナスカが保有する天然ガス火力発電所の一部事業権益を取得している。
出典:https://www.jera.co.jp/
アメリカの主要電力・ガス会社3選〜外資系編〜
BP (ビーピー)
以前は正式社名をThe British Petroleum Companyとしていた。起源は1909年のアングロ・ペルシアン石油会社の設立。現在はイギリスのロンドン市に本社を置く多国籍の石油・ガス会社であり、いわゆるスーパーメジャー会社で売り上げ・利益で測ると世界最大手の企業である。
アメリカには1978年、スタンダード・オイル・オブ・オハイオ社の吸収合併で進出。1998年にはインディアナ州のアモコ社も吸収合併させ、ARCO社も買収した。
現在約80か国で事業展開しており、世界に約18700か所のガソリンスタンドを持つ。その中で、同社の最大の売り上げを誇る部門はアメリカのBPアメリカという。2021年現在でエクソンモービル、シェル、トータルエナジーに次ぐ、世界4位の石油会社である。2022年のグループ全体の収益は2413億米ドルであり、従業員は世界中に70000人を超えているという。
出典:https://bp.com/
Shell (シェル)
世界最大の石油会社のひとつである、イギリスのロンドン市に本社を置く多国籍企業。アメリカ本社はテキサス州ヒューストン市におかれ、全米各地に18000人の従業員を抱える。アメリカ最大の石油・天然ガスの生産会社であり、天然ガスや燃料の販売者でもあり、石油化学メーカーのひとつでもある。
1997年、テキサコ社とシェルが合弁締結した。さらに2001年にテキサコ社がシェブロン社と合併した後は、シェル社はテキサコ社のガソリンステーションをすべてシェルブランドに転換した。その結果、モンタナ州を除く全米各地にガソリンステーションを構えている。ガソリンステーションの数は、約14000か所といわれている。
天然ガスおよびエネルギー部門は、シェル・エナジー・ノースアメリカ社としてスピンアウト。全米での天然ガス事業の効率を向上させるための新技術への投資を活性化させている。2022年の収益は373億米ドル。
出典:http://www.shell.us/
Avangrid (アバングリッド)
親会社はスペインのビルバオ市に本社がある多国籍電力会社。イギリスのスコティッシュパワーなどが子会社だが、中でも収益の大部分を担っているのがアメリカにある子会社のIberdrola USAである。2015年にUILホールディングスと合併して同社設立。
同社は水力発電、天然ガス・プロパンガス・エネルギーサービスおよび配送会社と定義されている。ニューイングランド・ペンシルバニア・ニューヨークの各地域で、約310万人の顧客を抱えている。
風力発電など、持続可能なエネルギーについての研究をリードする企業であり、全米25州に拠点を置いて研究を続けている。ニューヨーク州・コネチカット州・メイン州に合わせて8つの電力会社から9500MW以上の発電容量を管理している。2022年の従業員は7579名。グループ全体の収益は539億ユーロ。
出典:http://www.avangrid.com/
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。