ベトナムのFoodTech(フードテック)市場は、都市化と中産階級の拡大によって急成長を遂げ、2023年には市場規模が約964億7,000万ドルに達しました。消費者の健康志向と利便性への関心が高まる中、AIやIoTなどの先端技術が食品産業に浸透しています。
また、GrabFoodやShopeeFoodなどのプラットフォームがオンライン食品注文を牽引し、Facebookを活用したマーケティング戦略も重要な役割を果たしています。政府のデジタル経済支援が市場の成長をさらに後押ししており、今後の展開に注目が集まっています。
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ベトナムのフードテック市場の現状と成長要因
急成長するフード市場
ベトナムの飲食業界は急成長を遂げて、2023年の市場規模は約964億7,000万ドルに達し、前年比9%の成長が見込まれている。また、2023年から2027年にかけては年平均成長率(CAGR)8.22%で拡大する見通しである。 都市化と中産階級の増加が進む中、消費者は「健康志向」と「利便性」を重要視するようになっている。その結果、農産物から加工食品、流通までの幅広い分野においてテクノロジーの活用が加速し、人工知能(AI)、IoT、ロボティクスが食品産業の隅々まで浸透している。
出典:https://tapchicongthuong.vn/trien-vong-va-xu-huong-nganh-f-b-tai-viet-nam-123283.htm
https://vneconomy.vn/viet-nam-thi-truong-tiem-nang-cho-doanh-nghiep-thuc-pham-do-uong.htm
フードテック市場の発展の背景
まず挙げられるのが、ベトナム社会の急速な変化である。都市化が進み、中産階級が拡大するにつれて、人々の生活様式は多様化し、食に対するニーズも変化してきた。特に若い世代を中心に、健康志向や利便性を重視する傾向が強まり、従来の食文化に新たな価値観が加わっている。
次に、テクノロジーの進歩が大きな役割を果たしている。スマートフォンやインターネットの普及により、人々はいつでもどこでも情報にアクセスできるようになり、オンラインでの食品注文や決済が当たり前になってきた。また、AIやIoTといった先端技術の導入により、生産から消費までのサプライチェーンの効率化が図られ、新たなビジネスモデルが生まれ続けている。 そして、消費者の意識の変化も重要な要因である。環境問題への関心の高まりから、サステナブルな食への需要が拡大している。また、食品の安全性やトレーサビリティに対する意識も高まり、消費者はより安心できる食品を求めるようになっている。 これらの要因が複合的に作用し、ベトナムのフードテック市場は、オンデマンド配達サービスの普及、クラウドキッチンやスマートファームの登場など、革新的なサービスや技術を生み出している。
さらに、ベトナム政府もデジタル経済の育成を積極的に支援して、フードテック業界への投資も活発化している。こうした政府の支援も、市場の成長を後押しする大きな要因となっている。
出典:https://tuaf.vn/thuc-trang-nganh-cong-nghe-thuc-pham-viet-nam
食品産業におけるテクノロジーの応用
農業へのテクノロジーの取り入れ
スマート農業(AgriTech)の導入がベトナムの農業生産に大きな変革をもたらしている。IoTやドローン技術を利用した土壌モニタリング、作物の健康状態の管理が普及し、効率的かつ持続可能な農業の実現を支えている。 ドローンは広大な農地の監視に利用され、作物の成長状況や病害虫の早期発見に役立っている。
また、IoTセンサーによる土壌水分や気象データのリアルタイム取得により、適切な灌漑や施肥が可能となり、コスト削減と収穫の最大化を実現している。 さらに、直販プラットフォームの発展により、農家は市場と直接つながることができ、価格競争力を高め、流通コストを削減している。このような仕組みにより、ベトナム国内外での農産物の流通がより効率的に行われている。
出典:https://tudonghoangaynay.vn/robot-va-ai-se-dua-nong-nghiep-viet-nam-phat-trien-ben-vung-1924.html
生産と加工の自動化
食品工場では、AI(人工知能)やロボットの導入が進んでいる。従来は人力に依存していた工程を自動化することで、生産コストの削減と品質の均一化を実現している。 特にコーヒー豆やシーフードの加工工場では、ロボットアームが生産ラインを支えて、自動選別機能や包装工程の効率化が進んでいる。これにより、生産スピードが向上し、輸出産業の競争力が強化されている。 AI技術を活用した食品検査も拡大し、機械学習アルゴリズムが食品の異物検出や賞味期限管理を支え、廃棄ロスの削減に寄与している。これらのテクノロジーにより、ベトナム製品の品質は国際基準に対応しやすくなり、世界市場へのアクセスが強化されている。
出典:https://asquarecoffee.com/vi/tin-tuc/cong-nghe-tien-tien-trong-san-xuat-va-che-bien-ca-phe-hat
フードデリバリー業界のテクノロジー活用
GrabFoodやShopeeFoodといったプラットフォームは、テクノロジーの活用によって食品宅配業界の成長を牽引している。これらのサービスはAIアルゴリズムを活用して、最適な配達ルートの計算や注文の自動処理を行い、配達のスピードと効率を向上させている。 また、QRコード決済や非接触型配達が急速に普及して、パンデミックをきっかけに消費者の安全意識と利便性への需要が高まっている。これにより、オンライン注文の普及が加速し、食品業界全体のデジタル化が促進されている。
ベトナムのフードテックの主な傾向
農業のテクノロジー化
IoTとドローンの導入により、ベトナムの農業では生産性が飛躍的に向上している。リアルタイムデータ解析を活用し、土壌の状態、天候、灌漑などの情報を常時監視することで、適切な施肥や給水が可能になり、収穫量の最大化が実現している。 さらに、ドローンによる精密農業が広まりつつあり、大規模農場では農薬散布や収穫時期の判断が自動化されている。これにより、リソースの無駄を削減し、環境負荷の低減にも寄与している。この技術の普及により、農家は人手不足の課題を解消し、より持続可能な生産モデルを構築している。
出典:https://tapchitaichinh.vn/nong-nghiep-ung-dung-cong-nghe-cao-o-viet-nam-kho-khan-va-trien-vong.html
製造業の自動化とサステナビリティ
農産物の検疫に放射線照射技術が適用されている。この技術により、農産物を感染から保護し、有害生物の蔓延を防ぐことができる。したがって、農産物や食品の検疫を迅速かつ効果的に行うことができ、食品の衛生安全性を確保し、保存期間を延ばすことができる。 また、サステナブルな取り組みの一環として、バイオプラスチックやリサイクル可能な包装材料の使用が拡大している。こうした包装技術は、食品の鮮度を維持するだけでなく、環境に配慮した製品イメージの向上にもつながっている。政府はプラスチック廃棄物の削減を目標に掲げ、2025年までにプラスチック廃棄量を50%削減する方針を打ち出して、企業もこれに合わせた取り組みを強化している。
https://tuoitre.vn/xu-huong-bao-bi-xanh-trong-nganh-luong-thuc-thuc-pham-20231220155731884.htm
食品宅配業界の進化
パンデミック以降、食品宅配市場は急成長し、GrabやNow(ShopeeFood)などのプラットフォームが市場を牽引している。消費者の需要は利便性だけにとどまらず、エコフレンドリーな配送や環境に優しいパッケージ、さらに健康志向の食品にも高まっている。 たとえば、消費者は宅配注文時に、サステナブルな素材のパッケージ選択オプションを求める傾向が強まっている。健康志向の高まりを背景に、オーガニック食品やビーガンメニューの提供も拡大している。
食品宅配業界は引き続き拡大が見込まれて、AIを活用した注文分析や配達の最適化により、さらなる効率化が期待されている。こうした技術革新は、ベトナム国内のF&B業界の競争を一層激化させる要因ともなるであろう。
出典:https://vnexpress.net/shopeefood-thau-hieu-hanh-vi-dat-mon-cua-nguoi-dung-nho-ai-4770705.html
ベトナムのフードテック企業
Vinamilk
ベトナムを代表する乳製品メーカー、Vinamilkが、最新技術を駆使したスマート工場を導入し、業界に新たな風を吹き込んでいる。IoT、自動化技術、再生可能エネルギーを積極的に活用することで、高品質な製品の安定供給と環境負荷の軽減を両立させ、持続可能な経営を実現している。
Vinamilkのスマート工場では、IoT技術が生産ラインのあらゆるデータをリアルタイムで収集・分析。温度管理、設備の稼働状況、在庫データなどを一元管理し、生産効率の最適化と不具合の早期発見を可能にしている。これにより、製品品質の安定化とコスト削減を同時に達成している。 さらに、ロボットアームや自動検品システムなどの自動化技術を導入することで人手を必要とする工程を大幅に削減。24時間稼働体制を実現し、製造プロセス全体のスピードと効率を飛躍的に向上させている。
環境への配慮も怠らず、太陽光発電やバイオガスエネルギーなどの再生可能エネルギーを積極的に導入することで、二酸化炭素排出量を削減し、環境負荷の軽減に貢献している。 品質管理も徹底しており、自動化技術とデジタル化により、生産過程の各段階で詳細な品質チェックを実施。HACCPやISO認証を取得し、国内外の厳しい食品安全基準をクリアしている。
出典:https://www.vinamilk.com.vn/vi/cai-tien-doi-moi/cong-nghe-san-xuat-moi
CP
タイのCharoen Pokphandグループの一員であるC.P.ベトナム(CPV)は、家畜・飼料から食卓までの一貫した「フィード・ファーム・フード」モデルを展開し、ベトナムの農業・食品業界を牽引している。同社は、先端技術を活用し、生産効率の向上と持続可能な経営の両立を目指しており、その取り組みは国内外から注目を集めている。 CPVは、AIやIoT技術を導入することで、家畜の飼育から加工までの全プロセスを100%追跡可能にし、品質管理を強化。国際基準を満たす高品質な製品を提供している。また、ビッグデータ解析を活用することで、生産ラインの効率向上とコスト削減を実現し、競争力の強化に努めている。
Binh PhuocのCPVフードコンプレックスは、年間1億羽の鶏を生産する能力を持ち、再生可能エネルギーの利用や廃棄物の削減など、環境への配慮を重視した持続可能な農業のモデルとして注目されている。さらに、2021年から2025年にかけて全国で150万本の植樹を進め、地域社会の生態系保全にも貢献している。 Binh Phuoc工場は、国内市場だけでなく、欧州、日本、アジア各国への輸出も行っており、年間最大2億米ドルの売上を見込んでいる。同社は、国際基準を満たす高品質な鶏肉を提供することで、ベトナムの食品輸出拡大に大きく貢献している。 CPVは、環境保護やエネルギーの合理的利用に取り組むほか、最新技術を世界で初めて一部工場に導入するなど、サステナブルなビジネスをリードしている。ハノイ工場は環境に配慮した施設として表彰されるなど、その取り組みは高く評価されている。
Shopee Food
東南アジアのEコマース大手Sea Groupが展開するフードデリバリーサービス、ShopeeFoodが、ベトナム市場で大きな成功を収めている。既存のShopeeエコシステムとの連携を強みとし、積極的なプロモーションとテクノロジー活用によって、競争の激しいフードデリバリー市場で頭一つ抜き出ている。
ShopeeFoodは、元々Foodyのプラットフォーム「Now」を再ブランド化して誕生。Sea Groupの豊富なリソースと、すでに強固なブランド認知度を持つShopeeとの連携により、他の競合サービスよりも早く顧客の信頼を獲得した。
その成功の鍵は、以下の3つの戦略にある。
①エコシステムの統合: ShopeeのEコマースプラットフォームと統合し、ShopeePayを利用したキャッシュレス決済を促進。これにより、消費者は一つのアプリで買い物と食事の両方ができ、利便性が向上した。
②競争的なプロモーション施策: 大規模な割引キャンペーンやポイント還元を実施。特にパンデミック以降、急成長したデリバリー市場において、この積極的なプロモーションは、他の競合サービスとの差別化に大きく貢献した。
③地方都市への進出: 主要都市だけでなく、地方都市や新興市場にも積極的にサービスを展開。これにより、市場規模の拡大と、競合との競争激化を避けるという二つの効果を生み出している。
さらに、ShopeeFoodはテクノロジーを最大限に活用。AIとデータ分析を活用した配達ルートの最適化、リアルタイムの注文管理システムの導入、そしてShopeeの広範なデータを活用したパーソナライズされたレコメンデーションの提供など、様々な取り組みを行っている。
ShopeeFoodは、Shopeeのプラットフォーム全体と調和を図りながら、競争が激化するフードデリバリー市場で強固なポジションを築いている。エコシステムの統合、積極的なプロモーション、テクノロジーの活用という三つの戦略が、その成功を支えていると言える。この戦略は、パンデミック後も持続的な成長を見込むための重要な布石となっている。
出典:https://vnexpress.net/shopeefood-thau-hieu-hanh-vi-dat-mon-cua-nguoi-dung-nho-ai-4770705.html
Grab
Grabは、Southeast Asia全域での知名度と幅広いサービスを武器に、ベトナム市場で迅速に成長した。食事宅配をはじめ、電子決済やタクシー配車、物流などの多様なサービスが「スーパーアプリ」として一体化され、消費者の利便性を向上している。Grabのプラットフォームはユーザーと飲食店の接続を強化し、多数の注文を一元管理する効率的なエコシステムを構築している。
Grabは「現地化」と「ユーザー体験の最適化」を戦略の柱に据えている。ベトナム市場では、消費者行動の変化を素早く捉え、柔軟なキャンペーンやローカルフードの販促を積極的に実施している。また、顧客ロイヤルティを高めるGrabRewardsプログラムを通じて、持続的な利用を促進している。特に、Grabは食事のニーズに応じたAIアルゴリズムを導入し、レコメンドシステムで注文の利便性を向上させた。 さらに、飲食店向けのGrabMerchantアプリを提供し、注文管理からメニュー更新、分析ツールまで一括して支援することで、店舗運営の効率化も進めている。このプラットフォームの導入により、飲食店は在庫や人気商品を分析し、最適な販売戦略を立てることが可能になった。
Grabは多様なテクノロジーを駆使して運営を支えている。リアルタイムでドライバーと注文の状況を追跡するアルゴリズムは、配送効率を最大化し、特に雨天時など需要が急増する場面での対応力を向上させている。バッチ配送機能により、複数の注文を一度に処理し、配送の遅延を防止する仕組みも導入している。 また、GrabはGrabMapsという自社開発の地図データを活用し、配送ルートの最適化を図っている。このような技術は、フードデリバリーの満足度を高めるだけでなく、コスト削減にも寄与している。
ハノイ在住のベトナム人。名古屋大学で文部科学省奨学金の日研生として留学経験有り。日越の翻訳、通訳などが得意で、日本語教師の経験有り。ハノイで日系IT企業に入社後、主に総務・人事、日本親会社との取引業務を約3年経験し、その後長野県で日本企業で勤務。