アメリカの医療・介護業界は、高度な技術と巨大な市場規模を持つ一方で、複雑な保険システムや高額な医療費が課題となっています。医療機器やバイオテクノロジー市場は急成長しており、AIやデジタル技術の導入が進んでいます。また、在宅診断や個別化医療のニーズが高まり、業界全体が変革期を迎えています。
この記事では、統計データを用いてアメリカの医療・介護の最新情報をお届けしていきます!
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アメリカの病院〜統計データ〜
全米の総合病院数の概要
米国病院協会のデータによると、2024年1月現在、全米にて総合病院の数は、6,120ヶ所ある。そのうち、地域の総合病院の数は5,129ヶ所、非政府非営利地域病院の数が2,987ヶ所、投資家所有の(営利)地域病院の数が1,219ヶ所、州および地方自治体の地域病院の数が923ヶ所、連邦政府病院の数が207ヶ所、非連邦精神病院の数が659ヶ所ある。
また、ベッド数は916,752床。入院者数は3367万9,935人である。州別に見ると、一番総合病院の数が多い州はテキサス州で509ヶ所。2番目がカリフォルニア州355ヶ所。3番目がフロリダ州213ヶ所。4番目がオハイオ州187ヶ所。
5番目がペンシルベニア州185ヶ所。6番目がイリノイ州181ヶ所。7番目がニューヨーク州160ヶ所。8番目がルイジアナ州159ヶ所。9番目がジョージア州141ヶ所。10番目がミシガン州140ヶ所である。
出典 : 米国病院協会
正看護師の雇用状況
2022年5月時点での米国での正看護師の雇用状況は、雇用人数307万2,700人。年間平均賃金は8万9,010ドルであった。雇用が最も多い州はカリフォルニア州、32万5,620人。
2番目がテキサス州、23万1,060人。3番目がフロリダ州、19万7,630人。4番目がニューヨーク州、19万470人。5番目がペンシルベニア州、13万7,970人であった。
続いて平均年間賃金が最も高い州は、カリフォルニア州、13万3,340ドル。続いて2番目がハワイ州、11万3,220ドル。3番目がオレゴン州、10万6,610ドル。
4番目がマサチューセッツ州、10万4,150ドル。5番目がアラスカ州、10万3,310ドルだった。
出典:米国労働統計局
アメリカの医療機器事情〜統計データ〜
米国医療用品のコスト増加率
全米の医療コストは、人件費の上昇だけではなく、医療サプライチェーンの混乱により、医療システムの財政状況はますます持続不可能になりつつある。
過去3年間の国際貿易価格を追跡すると、2021年末の医薬品価格は、2019年と比較して46%も上昇した。これらの輸入品の製造は、少数の地域に限られており(主に中国と東南アジア)に集中する傾向がある。)、競争の欠如により、代替ソースを見つけることさえも困難になっている。
また、医療用品の30%は海外で製造されており、米国で「製造」された医療用品の多くには依然として外国の部品が含まれているため、影響を受ける数はさらに多くなる可能性がある。その結果、データによると、7月以降、供給コストの伸びは病院の人件費の伸びをも上回っている。
パンデミックの初期には、マスク、手袋、その他の個人用保護具が不足しており、初期の価格高騰を引き起こしたが、現在、さまざまな医療用品で大幅な価格上昇がみられている。労働者不足や配送遅延など、コスト上昇の要因の一部は解決する可能性があるが、その他の要因は、原材料の在庫が減るなどの別の問題が浮上している。
出典:ジストヘルスケア株式会社
米国での医療機器取扱い者の雇用状況
2022年5月時点での米国での医療機器取扱い者(医療機器の準備、滅菌、設置、または洗浄。日常的な研究室業務を実行し、機器を操作または検査する)の雇用状況は、雇用人数6万3,890人。
年間平均賃金は4万4,940ドルであった。雇用が最も多い州はカリフォルニア州、8,360人。2番目がニューヨーク州、4,930人。3番目がテキサス州、3,580人。4番目がフロリダ州、3,080人。5番目がオハイオ州、2,780人であった。
続いて平均年間賃金が最も高い州は、カリフォルニア州、5万9,490ドル。続いて2番目がコロンビア特別区、5万8,760ドル。3番目がアラスカ州、5万2,870ドル。4番目がハワイ州、5万2,130ドル。5番目がマサチューセッツ州、5万1,080ドルだった。
出典:米国労働統計局
アメリカの製薬・バイオテクノロジー〜統計データ〜
バイオテック業界の平均年間賃金
国を問わず、時代を問わず、業界を問わず、どうしても民間企業の賃金の方が高くなる。人の命に係わる仕事、例えば医者であっても同じである。
製薬・バイオテクノロジー関係であっても同じで、民間企業の給与ベースの方が潤沢な経営資金源により高くなることが多い。アメリカ国内では、最先端技術はカリフォルニア州が牽引しているため、州別にみるとカリフォルニア州が、次いでペンシルバニア州、マサチューセッツ州などの研究機関が集中しているところでの賃金が高い。
アメリカ人は日本人に比べて会社に対しての依存度・忠誠心が少ないので、転職のハードルが低い。平均で生涯に11回の転職をするという。
製薬・バイオテック業界で、特許まで取得すれば天文学的な収入を得ることができるという。それは限られた研究者だけの世界であって、データ分析やルーチンワークなどの一般職では表記の通りの「中所得者」に分類されるといわれる。
出典:U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS(アメリカ労働統計局)
大手企業と比較した製薬会社の収益性
アメリカでは、製薬会社が莫大な利益を独り占めしているなどと言われることが多い。実際、薬局に行くと様々な薬が販売されており、売り上げも食料品や嗜好品などにみられる価格変動などがほとんど見られない。
高値安定であり、企業の利益は常に安定しているとみられている。2000年から2018年までの18年間、大手製薬会社35社とS&P500 指数に含まれる製薬会社を除いた大手企業357社の利益を比較した研究結果がある。
それによると、大手製薬会社は、確かに他の大手企業よりも収益性は高かった。しかし、その企業規模や莫大な金額が投資される研究開発費や、利益を上げるまでの時間(認可にかかる時間や製品化されるまでにかかる時間)などを計算に入れると、実際には差がほとんどないということが分かった。
出典:The National Center for Biotechnology Information(アメリカ国立生物工学情報センター)
アメリカの医療卸事情〜統計データ〜
国別年間医療品支出額
アメリカの製薬会社と健康保険会社と政府は癒着しているのではないかと長年言われ続けている。市販薬の種類は天文学的な数字を示すともいわれ、飲食物の新製品をはるかに凌ぐ。
健康保険加入のハードルは高く、26歳までは親の健康保険に加入するのが得策ともいわれる。企業は従業員の福利厚生として健康保険を用意するが中小企業であれば経営圧迫の大きな要因になっている。
それらは政府と結託しているのではないかと長らく言われており、新型コロナにしても「政府が仕掛けた陰謀」との噂が広まった。医療システムの崩壊については世界中に知れ渡っている通りであり、病院に到着してから受診まで7時間、問診30秒で700ドルの請求などは日常的でもある。
処方箋だけ入手するためのオンライン医療・急患専門クリニックなどが地方都市でみられるようになり、さらに薬品価格が上昇した。もはやアメリカの医療事情は、風邪薬購入でさえ崩壊しているともいえる。
出典:経済協力開発機構(OECD)
インフレと薬品価格の関係
パンデミック前後での市販薬価格のインフレに対しての数値が変動していることがわかる。2017年から2018年にかけて、インフレ上昇率よりも薬品価格が上回っているとされたのは7割を示した。
風邪薬程度であっても年々価格が上昇していた。ましてや医師が出す処方箋などは医師に対してのリベートが関係している。このため健康保険を利用して処方箋を購入すると価格上昇には気が付かない。
価格上昇に対して、割合でリベートを受け取る医師はインフレと共にシフトしてリベートを受け取っていた。ところが2020年のパンデミックで、それも一部崩壊した。
2020年から2021年のデータを見ると、インフレをうわまったのは3割程度。その後経済が回復していくが、4割程度でとどまっている。
医療機関を訪れる機会が減ったことも考慮しなければならないが、それ以上に薬の購入に対してのブレーキがかかったとも考えられている。より購入しやすい価格のコピー薬の一般化なども追い風となっている。
出典:U.S. Department of Health and Human Services (アメリカ保健福祉省,HHS)
アメリカの介護事情〜統計データ〜
特別養護老人ホーム介護の基礎データ
一般に、農耕民族と狩猟民族に区分した時、アメリカは地域により、そのどちらにも当てはまる。農耕民族は何世代にもわたって農地を守り続けるため、年老いてもなお、その地にとどまることが多い。
このため、在宅医療機関の利用やデイサービスの利用が多いという。反して都会や工場などに隣接する郊外型住宅などがある地域では、居住型介護や老人ホームが多い。
いずれにせよ、家族以外が介護をする場合、その8割近くは営利目的の施設であることがわかっている。一部の宗教団体が運営する、非営利目的での施設は極端に少ない。
介護を必要とせず、かといって現役のような収入も無い老人はシニアハウスと呼ばれる政府補助のある施設を利用することが多い。日本のように老々介護などという言葉が見られないのは、幼いころから個人主義であり、年金制度なども含め、人には頼らない開拓者精神が今なお残っているのではないかともいわれる。
出典:Centers for Disease Control and Prevention (CDC, アメリカ疾病予防管理センター)
現在稼働中の老人ホームに関する一般情報
現在稼働中の老人介護施設14894か所からの聞き取り調査結果である。ベッド数に対して、そのベッドが一日に使用された回数で割合を示す。
その結果、149施設においてはベッドが一日に2回以上使用されている。非常に人気の介護施設であるか、施設が合理的に運営されているか、いずれかに相当する。
一方で、ベッド数と一日当たりの使用者数がほぼ一致する90%から100%の使用率は約25%弱となり、介護施設利用者のうち4人に1人はベッドを利用し続けているという計算になる。もう少し広げて、稼働率70%以上とするならば施設14894か所のうち7割弱となる。
この数値が意味するのは、一度施設に入所したら出所することは無いという意味ともとらえられる。アメリカの場合も、老人ホーム入所費用は非常に高額であり、一般的には自宅で介護サービスを使うことが多い。高齢化社会の問題点のひとつは、どの国でも同じということがわかる。
出典:The Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS, メディケアおよびメディケイド サービス センター)
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。