アメリカの家電市場は、巨大な規模と激しい競争が特徴です。特に、ベストバイ(Best Buy)、Walmartなどの主要プレイヤーは、それぞれ独自の戦略で市場をリードしています。本記事では、アメリカ家電量販店の市場動向を徹底解説。主要競合の戦略、オンラインとオフラインの競争、最新トレンド(例:スマートホーム、IoT)などを詳しく分析します。アメリカ家電市場への参入を検討している企業、またはアメリカの家電市場に関心のある読者にとって、有益な情報が満載です。
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アメリカの主要家電量販店7選〜ローカル編〜
Best Buy Co. Inc.(ベストバイ)
1966年創業。ミネソタ州リッチフィールド市に本社がある。2025年2月現在、Best Buyはアメリカ国内に1,056店舗を展開。特にカリフォルニア州に146店舗を持ち、全体の約14%を占める。また、カナダでも店舗を運営しているが、メキシコや中国からは撤退。
2023年のBest Buyの収益は463億ドルだったが、2022年から10.55%減少。2024年の年間収益は434.52億ドルで、前年から6.15%減少。2025年の第3四半期は、収益は94.5億ドルで、前年同期比3.2%減少。
2023年の従業員数は9万人で、2022年から14.29%減少。2024年にはさらに5.56%減少し、8万5千人に達する。
自社ブランドとして電子機器のDynex、AVホームシアター関係機器のMagnolia、家電のPacificなど8つの自社ブランドを製造販売している。もとは音響器具を扱う電気店ではあったが、買収や合併などを繰り返し家電を扱うようになった。特に同業者のCircuit Cityとの価格競争は激しかった。
Best Buyは、オンラインショッピングの普及や関税の影響を受けつつも、デジタル体験の強化や新しいマーケットプレイスの立ち上げなど、積極的な戦略を展開している。しかし、収益の減少や店舗閉鎖(2025年までに10〜15店舗)も予定されている。将来的には、平均年間収益成長率1.8%を目指しているが、これはアメリカの専門小売業界全体の予測4.7%よりも低い。
出典︓https://www.bestbuy.com/
The Home Depot, Inc.(ホームデポ)
The Home Depot, Inc.は、1978年にアメリカで創業された世界最大のホームセンターである。同社は住宅改善用品や建材、庭園用品を中心に幅広い商品を提供しており、アメリカ、カナダ、メキシコで事業を展開している。2025年現在、The Home Depotは全世界で2,350以上の店舗を運営しており、約50万人の従業員を抱えている。特にアメリカ国内では圧倒的な市場シェアを持ち、ホームセンター業界のリーダーとして位置付けられている。
2025年度の年間収益は1595億ドルで、前年から4.48%増加した。直近の四半期(2024年第4四半期)では売上が397億ドルに達し、前年同期比14.1%増加した。特に既存店売上高は0.8%増加し、2年間続いた減少傾向に終止符を打った。
オレンジ色のエプロンが制服になっている。巨大な倉庫状態の店内での家電コーナーは、冷蔵庫・洗濯機・照明・掃除機・食洗器などのコーナーに分かれ、それぞれに専門アシスタントがいる相談コーナーが設けられている。基本的には在庫を持たず注文後3日以内に配送する形式を採用している。
また、多くの店舗にはレンタカー会社が併設されており、大型商品を購入した顧客が利用できる。そして、「Magic Apron」というAIツールを導入し、オンラインショッピング体験を強化している。このツールは製品レビューの要約やプロジェクトに必要な材料計算など、顧客サポートをデジタルで提供する
出典︓https://www.homedepot.com/
Loweʻs Companies, Inc.(ロウズ)
Lowe’s Companies, Inc.は、ノースカロライナ州ムーアズビル市に本社を置くアメリカのホームセンター大手。ホームデポと同様に、家電量販店ではなく、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電を取り扱っている。
2025年現在、Lowe’sは全米に約1,748店舗を展開。従業員数は約30万人を超える。これにより、幅広い地域で顧客にサービスを提供している。過去にはオーストラリアやカナダやメキシコにも進出していたが、すべて撤退している。
2025年の年間収益は約837億ドルで、前年から3.13%減少。2025年の純利益は69.57億ドルで、前年から9.7%減少。一方で、2025年第1四半期の純利益は11.25億ドルで、前年同期比10.29%増加。
1921年に金物雑貨店(アメリカの町には必ずあるハードウェア店)として創業。2022年現在で全米に1700店舗、従業員は300000人を超すという。収益は721億米ドル。特にコロナ禍でDIYが高まったことが売り上げ増を加速させたとされる。
過去にはオーストラリアやカナダ、メキシコにも進出していましたが、現在はすべて撤退。1980年代以降、ホームデポとの競争激化に伴い、メガストア形式に移行したが、依然として店内のスタッフ教育に力を入れている。
Lowe’sは、2025年に「Total Home Strategy」を展開し、プロ顧客への浸透を深め、オンライン販売を強化し、ホームサービスを拡大する計画を進めている。また、AI技術を活用して顧客体験を向上させる取り組みも行っている。
出典︓https://www.lowes.com/
Target Corporation(ターゲット)
1902年創業のグッドフェロードライフーズという、宗教系の雑貨店が源流。酒類販売の禁止や日曜日休業など、キリスト教に基づく店舗だった。宝石店の吸収合併などで拡大し、デパート化した。1962年、デイトンデパートのディスカウント部門として設立。80年代にスピンアウトし、全国展開。90年代にターゲットブランド名で拡大路線に乗った。
本社はミネソタ州ミネアポリス市。2025年2月現在、全米に1,978店舗を展開。従業員数は2024年度末で415,000人で、前年から5.68%減少。2025年第4四半期の売上は30億9,150万米ドルで、前年同期比3.1%減少。一方、純利益は11億1,030万米ドルで、前年同期の13億8,200万米ドルから減少。基本EPSは2.42ドル、希薄EPSは2.41ドルで、前年同期の2.99ドルと2.98ドルから減少。
アメリカでは2022年度小売店ランキング7位に位置する。2025年に入り、Targetはデジタル化や新商品の導入を進めている。特にデジタル販売は強力で、2025年度には15億ドル以上の売上増加を目指す戦略を発表した。また、2025年には20店舗を新規開業し、多数の店舗をリモデルする計画だ。
出典:https://corporate.target.com/
Walmart Inc.(ウォルマート)
Walmart Inc.は、1962年にディスカウントストアとして創業し、現在では世界最大の小売業者の一つとなっている。本社はアーカンソー州ベントンビル市にあり、主に食料品を中心としたスーパーマーケットとして展開する。店内にはホームセンターや家電量販のコーナーも組み込まれ、顧客が一度に多くの買い物を完了できる巨大店として知られている。
2024年1月31日時点で、Walmartは世界中で10,616店舗を展開。また、従業員数は2024年度末で約210万人を超える。アメリカ国内では、ハワイ州を除く全ての州に店舗を持ち、幅広い地域でサービスを提供している。
2025年度のWalmartの総収益は681億ドルに達し、前年比5.1%の増加を記録。特にeコマース部門は強力で、2025年度には全体の売上の18%を占めている。また、Walmart+メンバーシップや広告収入も大幅に増加し、収益構造の多様化が進んでいる。
Walmartは、Amazonに次ぐアメリカ第二位の小売業者であり、スーパーセンター形式の店舗が特徴だ。家電については、店内で在庫を確認し、直接持ち帰ることができる点が特徴である。さらに、Costcoのような会員制倉庫形式のディスカウント店であるサムズクラブも順調に展開中で、家電量販部門も含まれている。
出典︓https://www.walmart.com/
Sears, Roebuck and Co.(シアーズ)
Sears, Roebuck and Co.は、1892年にイリノイ州シカゴで創業されたカタログ通販会社が起源だ。1925年から小売店舗を展開し、総合デパートとして成長した。1974年にはシカゴ市にシアーズタワーを建設し、当時のアメリカの小売業界で大きな存在感を示した。
Kmartの買収など、2000年代は経営に迷走が見られ、2021年には倒産。全米の115店舗が解体された。現在は再生法に基づき経営している。2023年現在、17店舗が残っている。
2023年には、カリフォルニア州バーバンクやワシントン州ユニオンガップで閉鎖されていた店舗が再開したが、これは本格的な再生策ではなく、空きスペースを活用するための措置と見られている。2025年には、Sears Holdingsの収益が105.2億ドルに達し、前年から19.4%減少した。
Searsも家電量販店ではなく、いわゆるデパートである。全盛期の頃はKenmoreなど、家電の自社ブランドも販売していた。家電に関しては、限られた地域のみであったが、アウトレット店も出店していたことがある。大幅な値引きは無かったが、性能の良いものだけを取り扱うイメージを戦略として打ち出していた。
Searsの家電商品は、配達が原則だが、在庫がある場合は即日持ち帰りが可能。ただし、持ち帰れる商品は車に積み込める程度のものに限定されている。
出典: https://www.paragon.com.sg
R. H. Macy & Co.(メイシーズ)
. H. Macy & Co.は、1858年にニューヨークで創業したアメリカを代表する老舗高級デパートである。感謝祭パレードや独立記念日花火大会のスポンサーとしても知られ、ニューヨークの象徴的存在となっている。2025年現在も、ブルーミングデールズやブルーメルキュリーなどのブランドを展開し、多様な商品ラインナップを提供している。
2025年2月現在、メイシーズはアメリカ国内で508店舗を運営しており、従業員数は約94,000人である。主力店舗であるニューヨーク・ヘラルドスクエア店は世界最大級のデパートとして知られ、その広さは約10万平方メートルに及ぶ。
2024年度の年間売上は217億米ドルで、前年から減少したものの、純利益は予想を上回った。2025年度の売上予測は210億~214億米ドルとされており、経済不安や消費者需要の低迷が影響している。特に衣類やアクセサリー分野での売上減少が顕著である。
メイシーズは「Bold New Chapter」と呼ばれる成長戦略を進めており、収益性の高い事業への集中と店舗閉鎖を進めている。2026年までに150店舗を閉鎖する計画のうち、2024年末までに64店舗を閉鎖した。また、小型店舗「Market by Macy’s」の展開やブルーミングデールズ、ブルーメルキュリーの拡大に注力している。
出典︓https://www.sears.com/
アメリカの主要家電量販店〜日系編〜
Fujisan-Us.Com(フジサンドットコム)
1998年10月に立ち上がったWEBストア。アメリカ在住者に日本の書籍・薬品・化粧品などを日本の定価で提供してきた。2011年からは運営元をNipponShosekiHanbai,Inc.(カリフォルニア州)に変更。在米日本人の中では、日本の電化製品が購入できる店のひとつ。
2025年2月現在、日本の主要なオンラインストアである楽天やAmazon Japanなどが日本製家電の海外発送に対応する店舗が増加している。しかし、アメリカの電圧(120V)に合わせた製品を取り扱う家電量販店は依然として少ない状況である。そのため、駐在員や在米日本人の家庭では、変圧器を使用して日本から持ち込んだ家電を利用するケースが多く見られる。変圧器は、電圧の異なる国で電化製品を安全に使用するために必要な装置である。
さらに、2025年3月には、アメリカ政府が日本からの輸入品に対する関税強化を示唆しており、日本企業は在米在庫の積み増しや生産戦略の見直しを進めている。 これにより、日本製家電の価格や供給に影響が及ぶ可能性があり、アメリカ在住者にとって日本製品の入手が一層困難になることが懸念されている。
このような状況下で、Fujisan-Us.Comのような専門店の存在は、アメリカ在住者が日本製品を入手する上で重要な役割を果たしている。特に、アメリカの電圧に対応した日本製家電の提供や、変圧器の取り扱いなど、ユーザーのニーズに合わせたサービスを展開している。
出典︓https://www.fujisan-us.com/
アメリカの主要家電量販店2選〜外資系編〜
Samsung Experience Store(サムスン エクスペリエンス ストア)
Samsungは2016年2月、ニューヨーク本社内に旗艦店「Samsung 837」をオープンした。この施設は製品の販売を行わず、Samsungのコンセプトやテクノロジーを一般公開する場として設立された。しかし、2024年12月24日に閉店している。
2019年2月、Samsungは米国で初の直営小売店をニューヨーク、ロサンゼルス、ヒューストンにオープンした。2025年3月現在、米国内のSamsung Experience Storeは以下の4店舗で運営されている:
テキサス州フリスコのStonebriar Centre、ニューヨーク州ガーデンシティのRoosevelt Field、テキサス州ヒューストンのThe Galleria、カリフォルニア州グレンデールのAmericana at Brand
これらの店舗では、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、オーディオ機器、ウェアラブルデバイス、モバイルアクセサリーなどのSamsung製品の販売や、デバイスの修理、ソフトウェアサポート、デバイス教育、ビジネスソリューションの提供が行われている。
さらに、Best Buy店内にもSamsung Experience Shopが設置されており、Samsungのトレーニングを受けたBest Buyの店員が顧客対応を行っている。
出典:https://www.samsung.com/us/samsung-experience-store/
Miele & Cie. KG(ミーレ)
Miele & Cie. KGは、1899年にドイツで創業した老舗の家電メーカーである。同社は洗濯機などの家電製品からオートバイ、戦時中には魚雷用の部品まで多岐にわたる製品を手掛けてきた。現在、世界47か国に拠点を持ち、アメリカには1983年に進出し、本部をニュージャージー州サマセット市に設立した。その後、1999年にニュージャージー州プリンストン市に移転している。
2024年のMieleの売上は5.04億ユーロに達し、前年比1.7%の増加を記録。これは、厳しい市場環境や経済的課題の中での成果だ。また、従業員数は約23,500人に増加し、3.4%の増加を示している。2025年には、洗濯機に世界初のリブレスドラムを搭載した製品を発売する予定だ。この「InfinityCare」ドラムは、デリケートな素材に対しても優れた保護と長持ちを提供する。
製品を顧客に直接体験してもらう目的で、MieleExperience Centerを北米内に10か所運営している。同店舗には在庫はないので、同社の製品を持ち帰りすることはできないが、体験旗艦店で体験後、その場で店員と相談しながらWEB店舗を使って購入することは可能という。
展示だけではなく、同社の新製品を使っての料理教室が開かれたり、新製品のデモンストレーションが開かれたりしている。同社は北米では高級家電メーカーとして扱われているので、TargetやWalmartなどの量販店では取り扱っていない。外資系家電メーカーで直営店を北米に出店するのは珍しい。
出典:https://www.mieleusa.com/
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。