[2025年最新版] 中国の日本産水産物規制と日系企業への飲食・製造業(食品)への影響

2025年、中国政府は約2年続いた日本産水産物の事実上の全面禁輸を、6月29日の海关总署公告2025年第140号によって一部解除した。ただし、解除は限定的で、10都県(福島・群馬・栃木・茨城・宮城・新潟・長野・埼玉・東京・千葉) の水産物・食品は依然として輸入禁止とされたままである。
本記事では、中国の経済制裁(輸入規制)の要点および2025年12月時点での日系企業への影響を解説する。

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目次

中国の対日「経済制裁(輸入規制)」とは

中国の日本への経済制裁の概要

中国政府は2023年8月24日、ALPS処理水の海洋放出を理由に日本産水産物(食用水生動物を含む)の全面輸入停止を発表した。(海关总署公告2023年第103号)これが事実上の「経済制裁」であり、農水省によると日本の水産輸出の最大市場であった中国に対し、年間871億円(ホタテだけで467億円)の市場に影響が及んだ。

出典: 中国 税関総署「日本水産物の輸入全面停止に関する公告」(税関総署公告2023年第103号)

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2025年:制裁の“部分解除”の実態

日中技術協議での合意(2025年5月30日)

2023年8月のALPS処理水の海洋放出を契機として、中国は日本産水産物の輸入を全面的に停止した。これに対し日本政府は、外交・技術の両面から輸出再開に向けた対応を継続してきた。2024年9月には日中両政府が「日中間の共有された認識」を発表し、同年10月からはIAEAの枠組みに基づく追加的モニタリングが開始された。さらに、2024年11月の日中首脳会談、同年12月の外務大臣訪中、2025年3月の日中ハイレベル経済対話など、あらゆる外交機会を通じて、中国側に対し日本産水産物の輸入再開を早期に実現するよう働きかけが行われてきた。

こうした外交的取り組みと並行して、2025年3月以降、日中当局間では日本産水産物の対中輸出再開に向けた技術協議が継続的に実施されてきた。その結果、2025年5月28日に北京で開催された第4回技術協議において、輸出再開に必要となる技術的要件について日中双方が合意に至った。今後は、中国側における関連手続の進展を前提として、日本産水産物の対中輸出再開が見込まれる段階に入ったと整理できる。

出典元:外部省 日本産水産物の対中輸出再開に向けた日中当局間の技術協議

中国の“部分解除”公告(2025年6月29日)

2025年6月29日、中国税関総署は「海关总署公告2025年第140号」を発表した。要点は以下である。

  • 10都県を対象に輸入禁止を継続
  • その他37道府県産の水産物は施設登録・証明書添付を条件に輸入再開
  • WTO/SPS協定に沿った措置であると説明

以下は海关总署公告2025年第140号の詳細である。

日本の福島原子力発電所の核汚染水の海洋放出をめぐり、国際的な長期モニタリングおよび中国側による独立したサンプリング監視を継続的に実施し、現時点で異常が確認されていないこと、また日本政府が中国向け水産物の品質および安全性を確保することを約束していることを前提として、中国は自国の食品安全に関する法律・法規および世界貿易機関(WTO)の「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)」の関連原則に基づき、消費者の正当な権益を保護するため、日本の一部地域を原産地とする水産物(食用水生動物を含む。以下同じ)の輸入を条件付きで再開することを決定した。具体的事項は以下のとおりである。

一、即日より、日本を原産地とする水産物の一部について輸入を再開する。ただし、福島県、群馬県、栃木県、茨城県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県、東京都、千葉県の10都県を原産地とする水産物は除外する。

二、中国向けに水産物を輸出する日本の企業は、中国の輸入食品に関する海外生産企業登録管理等の関連規定に適合しなければならない。輸入が停止されていた水産物生産企業は、中国における登録を改めて申請する必要があり、登録取得日以降に生産された水産物のみが中国向け輸出を認められる。食用水生動物については、養殖企業および包装企業も同様に中国での再登録申請が必要であり、登録完了日以降に中国向け貿易を行うことができる。

三、日本産水産物の輸入申告に際しては、日本の公式機関が発行した衛生証明書、放射性物質検査合格証明書および産地証明書を提出しなければならない。

四、中国の税関は、中国向け日本産水産物に対して厳格な監督管理を実施する。中国の関連法令および食品安全基準に適合しない事例、または日本側が公式な監督責任を有効に履行していない事例が確認された場合には、速やかに管理措置を講じ、中国国民の健康と安全を確実に保護する。

なお、海関総署2023年第103号公告は同時に廃止する。

出典元:中国税関総署 海关总署公告2025年第140号

日本側による2025年時点の規制整理

農林水産省は同日、2025年6月29日以降の中国規制の全体像を整理した。日本側の整理によれば、2025年時点における中国の輸入規制は、「全面解除」ではなく、地域・品目ごとに異なる条件を組み合わせた制度として運用されている。輸出再開が認められた品目であっても、証明書提出や施設登録といった手続的要件が付されており、対中輸出を行う事業者にとっては、引き続き高い実務対応能力が求められる構造となっている。

水産物については、ALPS処理水の海洋放出を理由に一時停止されていた37道府県産品の輸入が、2025年6月29日をもって解除された。ただし、輸入再開は無条件ではなく、放射性物質に関する検査証明書や産地証明書の提出が前提とされている。加えて、中国向けに水産物を輸出する場合には、加工、保管、包装施設や養殖場について、中国側での登録を完了していることが求められる。

出典元:農林水産省 中国の輸入規制の概要

2025年:中国の輸入規制が世界市場に与える影響

中国の輸入規制の中国本土への影響

中国による日本産食品・水産物の輸入規制は、2025年時点においても中国本土の外食・小売・食品流通に持続的な影響を与えている。10都県を原産地とする食品および水産物は引き続き輸入停止とされ、その他の地域についても、施設登録や証明書提出を前提とする条件付き輸入にとどまっている。このため、日本食レストランや日本食品スーパーでは、日本産原材料の安定的な調達が難しい状況が続いている。

また、野菜や乳製品、茶葉など一部品目では実質的な輸入停止状態が解消されておらず、外食・小売の現場では、メニューや商材を非日本産原料へ切り替える動きが広がっている。日本の食品メーカーにとっても、中国市場への再参入や投資判断には、制度の不確実性や供給制約を前提とした慎重な対応が求められている。結果として、中国本土市場においては、日本産ブランドを軸としたビジネスモデルの構築が引き続き難しい環境が続いている。

中国の輸入規制の香港への影響

中国本土における日本産食品・水産物の輸入規制が継続する中、香港は日本産水産物の代替的な消費地の一つとして位置づけられてきた。中国本土向けの正規輸出が制限される中で、日本産水産物の一部は香港市場に流入し、消費・流通が維持されている。一方で、香港市場は規模に限りがあり、中国本土向け輸出の減少分を完全に吸収することは難しい。

また、中国本土への再輸出を前提とした商流は不安定化しており、香港を経由した間接的な流通には制約が残っている。このため、香港市場は日本産水産物にとって重要な受け皿である一方、中国市場の代替としての機能には限界がある。結果として、香港への流入は一時的な調整先としての性格が強く、日本産食品・水産物の輸出構造全体における抜本的な解決策とはなっていない。

中国の輸入規制のASEANへの影響

中国による日本産食品・水産物の輸入規制が長期化する中、日本政府および関係機関は輸出先の多角化を進めており、ASEAN諸国はその受け皿の一つとして位置づけられている。中国向け輸出が制度上制限される状況において、日本産水産物、とりわけホタテを含む一部商材は、中国本土以外の市場へと商流を転換しており、ASEAN向け輸出は相対的に拡大している。

中国市場への輸出制約を背景に、日本産農林水産物・食品の輸出構造が変化していることが示唆され、ASEANは中国に代わる重要な輸出先の一つとされている。また、東南アジア各国における日本産食品の流通量や市場での露出が増加していることが報告されている中で、ASEANの外食・小売分野では、日本産食品を調達する機会が相対的に増え、供給環境が改善している側面がある。

一方で、ASEAN市場は中国本土と比べて市場規模や消費単価が異なり、中国向け輸出の減少分をそのまま代替できるわけではない。日本企業の進出や日本産商材の流入が進むことで、現地市場では競争環境が厳しさを増している。また、中国向けを前提としていた物流・通関体制が、日本からASEAN向けに再構築される過程で、価格形成や商流構造にも変化が生じている。

このように、ASEANは日本産食品・水産物にとって重要な補完市場としての役割を果たしているものの、中国市場の完全な代替先というよりは、輸出先分散を支える戦略的市場として位置づけられている。

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李 偉 China Market Research Analyst
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。
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